Web小説の作法:空白と改行
従来の小説作法は、原稿用紙と印刷における作法である。
原稿作法の確立である。
しかし、Web時代においてはその作法は変わる。
blog作法ともいうべき別種の新しい作法が確立されつつある。
それはおもに、行頭の空けと改行にまつわる作法だ。
そのblog作法を明文するとともに、
書字作法が何故、発生・変化・進展したかを解き明かす。
それは、紙という物理媒体の制限のためである。
原稿作法。
その一番の特徴とは、以下の通り。
・行頭は一文字開ける
・段落は詰めない
この二つに集約されている。
blog作法とは、HTMLとCSSの発展により形成された、
PC・web時代の新しい作法だ。
その特徴は、原稿作法の逆である。
・行頭は開けない
・行頭を開けない代わりに、段落の区切りとして一行ほど開ける。
・改行を多用する
ここでは、行頭と段落の作法が何故形成されたのか、それを見てゆきたい。――簡単に言ってしまえば、全ては紙の節約と制限に起因する。
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従来の執筆と製本においては、全ては紙という媒体に束縛されていた。原稿用紙であろうと枚数を得るにはカネがかかり、製本するに至っては苦行に近い活字拾いが待ち構える。印刷においても、限りある紙をどのように節約するか、という経済的な至上命題が存在した。
紙を節約するための作法、それが原稿用紙の作法だ。
その中核は、改行である。限りある白紙に文字を印刷する場合、無駄な改行は無い方が良い。そのため、改行を〈印刷〉するということはなるべく避けたい。
また、原稿においても大量の改行ははっきり言えば無駄だ。紙を使ってしまう。
旧来の作法で見逃されてきた要素、それが改行や空白だ。
PC-webの系では、その問題は解決された。我々は、いわば無限の原稿用紙と無限の印刷用紙をもっている。改行や空白はいくら使ってもよい。むしろ、いくらでも使えるようになった。
そして特筆すべきは、改行を『書く』、空白を『書く』という動作が擬似的に可能となったことだ。つまりはキーボードのリターンキーやスペースキーを押すという動作で、無を明示できるようになった。キーを押すだけで簡単に改行できる、これがblog作法の核心を形成している。
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また、キーボードでの書字に関して、おおよそ日本語においてはスペースキーは空白の意味で用いられることがほとんどない。それは、かな漢字変換システムにおける変換キーの役割を担っている。そしてリターンキーも同様であり、ほとんどが決定の意味で用いられる。この用途が入り混じった二重状態こそ、PCでの日本語の背骨になっている。
英語などであれば、スペースキーはそのままの用途で用いられる。一万語の小説であれば、スペースキーを押す回数はおおよそ9999回だ。語数と同じだけの頻度で、空白としてのスペースキーを押す。
日本語では、スペースキーを空白として用いる回数は極度に少ない。リターンキーはそれよりも本来の用途の頻度が高いものの、やはり本来の用途すなわち改行として用いられる回数は少ない。200字に一回、つまりは一段落に一度ほどの割合だ。
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小説に限らずおおよそ全ての世に出る文章は、下書きと発表の二段階を経る。従来までは、この二つの間に深い隔たりがあった。作っている最中と出来上がりが全く違うものになる。
それが是正されたのは、PCが導入されてから、京極夏彦がinDesignを使い始めた頃からだ。DTPの画面においては、原稿と製本が一致する。一致するからこそ、ページを跨いだ文章が無い――という組み版が可能となった。
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ページとスクロール。
文字閲覧の方法には、おおよそ二つの形態がある。
・本のページをめくる
・巻物を手繰る
PC上ではスクロールが一般的だ。ブラウザ、テキストエディタはおおむねスクロール方式を採っている。そして、スクロール方式に適合した文章の作法は、やはり前述のblog作法だ。もっといえば、スクロール方式に適した文章と、ページ方式に適した文章は、違う。