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簡略されるドラマツルギー : 努力、成長、覚醒、チート、そして……

「努力して強くなる」から「神様に与えられる力」に。文脈推移の深層を論考する。


主人公が覚醒して強くなる、という流れ。どうせ強くなるのなら、覚醒までの過程を全てすっ飛ばせばいい。今の文芸には、それを手軽に行うための転生・召喚・チートうんぬんなどの手法が、すでに確立している。作者はその手法を用いて、「努力」「成長」なる冗長かつ退屈極まりない過程を全てすっ飛ばし、究極の存在を最初から読者へと与えることが出来る。そしてその方が、今まで十分に語られたことをすっ飛ばせるので、作者はより文芸を遠くへと運ぶことが出来る。どうせ全てのファンタジーで主人公の成長が約束されているなら、最初から成長済みの強いキャラクターを与えた方がいい。その方が面倒臭くないし、「最初からチート」という比較的新しい展開をさらに推し進める(遠くに運ぶ)ことが出来る。


あるいは、「成長する」「成長するのに適した努力がある」「努力すれば必ず成長する」ということへの大衆の欺瞞が、文芸にも影響を与えている。ここで、とある社会システムを理解し、そこに組み込まれ、その社会の一員になるのが「成長」、また、その社会システムのトップに立つのが「強さ」だとする。ならば、今の社会は、――そのような過程が存在しない、どう努力すればいいか分からない、従来の社会システムが破壊されたので従来の成長手法は使えなくなった、しかもどうやってトップに登ればいいのか全く不明――、ということだろう。そして、旧来の社会システムの崩壊と同時に、「成長」という物語要素も信仰を無くし、失われつつある。


文芸は、今現在の社会構造(つまり読者・大衆の集合意思)を反映する。ここで、一定の努力を重ねて一定の成果が出て段階的に強くなれる、ということを信じられる社会であれば、成長モノはもてはやされるだろう。昔の日本はそうだった。しかし今は、折からの不況によって年功序列やらなんやらの社会システムはほとんど壊滅状態になって崩壊間近、さらに格差という現実が構築され、そして格差と同時に「初めから貴種」と言わんばかりの人間が目立つようになる。そうなると、文芸では「チート」という文芸的ギミックが通用する。


そう、今の社会は出自によってチートか否かが決まっている。かつ、それが情報網(テレビやネットや週刊誌など)によって大きく宣伝されバンドワゴンされる時代。貴種流離譚が昔のテンプレであったように、今は貴種流離譚のエッセンスであるチートだけで設定が説明できる。


そもそも、「貴種」はそのままチートを示す。貴種という文芸的ギミックの背後には、必ず、その社会システム内部でのチートが約束されている。貴種流離譚のテンプレとしての面白さが「本当はあなたはチートな人間です!」という宣言にあれば、そのエッセンスを抽出したチート設定が受けないはずが無い。


つまり、チート設定は、格差社会が完成されるほど、大衆に受け入れられる。


転生ものに必ず付属する「現世からの死」という前段階は、現実からの強い、強すぎる逃避を表す。そして仏教的な観点から、輪廻転生というギミックを持ち出す。今の社会は、一度死なないと強者にはなれない世界であり、宗教観も転生モノの流行を後押ししている。「来世では……」という淡い期待を予感させる宗教的な文芸。それが転生モノや異世界召喚モノとして、多くの人の手に渡っている。


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