6
泰成が事務所の扉を開けると、拓也がソファに両足を投げ出して寛いでいた。
手には携帯ゲーム機を抱え、膝の上には旅行雑誌が伏せて置かれてる。
「あ、泰兄おかえりー」
そしてゲームから目を離さず、当り前の様に声をかけてきた。
泰成は、唖然とした。
「……拓也?」
「あ、拓ちゃんクリアした! すっごい!」
「いぇ~い、ライフ一個も減らしてなーい」
「いぇ~い」
拓也は隣に座っているちーと、二人で盛り上がってハイタッチ。そして再び、今度はソファの背後のユミも交えて三人で、小さな画面を覗き込むようにゲームを再開させた。
しばらく呆れたように見入っていた泰成は、思い出したように靴を脱いで部屋に上がる。
「……お前、何でここにいるんだよ?」
「んー? だって泰兄、なんか話があるって言ったじゃない」
やっぱり拓也は顔を上げない。この図々しさ、今に始まった事じゃねぇけど。
「言ったけどよ、来いとは言ってねーだろうが」
「だって電話しても繋がらなかったし、今日はたまたま近くから直帰だったんだもん。え、何? 僕がココ来ちゃいけなかったの?」
「そーんな事無いよぉ。拓ちゃんなら大歓迎。だって従業員みたいなものじゃん」
「そうよ、拓也の引き抜きで随分この事務所、助かってるもんね」
「ねー」
再び三人で盛り上がり、やがて泰成の雰囲気の変化に気付いたのか、三人そろってやっと、彼の顔に視線を移した。
拓也がわざとらしく、眉間に皺を寄せる。
「……なんかあのおじさん、メッチャ怒ってる」
「どしたの、泰ちゃん?」
「そういえばここの所、様子おかしくない? この間も吠えてたでしょ」
ユミが言って、拓也は迷惑そうな顔をした。
「吠えてた? うわ、うるさそー」
「あー、もういいから! お前らもう、帰れ! 今日は仕事ないだろ。ここはラウンジじゃあねーんだ」
泰成がイライラとした声を上げ、拓也が小さな声で「ホントだ、吠えた」と呟いた。
ユミとちーは憤慨した様に膨れる。
「え、何それいきなり。ひっどーい」
それでも泰成の様子に何かを察したのだろう。手早く帰り支度を済ませると、拓也に小さく手をふり「バイバーイ」と声を揃えて言った。拓也もにっこり笑って「バイバイまたねー」と手を振る。
二人が出て行き静かになると、拓也は膝の上の旅行雑誌を机に置き、ゲーム機もその上に置いて泰成を見上げた。
「で、どうしたの? なんかあったの?」
「お前さ、奏ちゃんとはもう別れたか?」
「……え?」
不意をつかれたように、拓也が口を開ける。それを泰成が黙って眺めた。
拓也は、探る様に彼を見つめ返した。
「何で?」
「その調子じゃ、まだ別れてねぇな」
「いや、だから何で?」
「別れろ。今すぐ、別れろ。彼女は何か、企んでる気がする!」
彼女はきっと、俺が腹違いの兄貴だって知っている。街角で偶然出会った時のあの妙な雰囲気は、ソレだったんだ。ひょっとすると、俺らがホストをやっていた時から既に、彼女はこの事を知っていたのかもしれない。
そんな彼女が、俺の弟分みたいな拓也と付き合うなんて、偶然だと考えにくくて当然だろ!
「はあ?」
事情を知らない拓也は、突拍子もない台詞に思わず大声が出てしまった。
ところが泰成はパタっと口を閉じ、ローテーブルを挟んで向かいにある一人掛け用ソファに、腕を組んで座りこんだ。
ついでに目まで閉じている。
拓也は唖然とした。
「どう言う事?」
「……」
「……もしもし?」
「……」
「……ちょっと。寝てんの?」
「……」
「もしもーし。うわ、この人ふざけてる?」
「……いつ別れるんだ?」
眉間に皺を寄せて、目を閉じたまま、難しそうに口を開く。イライラしている。
何、この空気。拓也は呆れかえった。何、その眉間の皺。何、その腕組。あんたム○イさん? 事件が現場で起こっちゃってんの?
「……だから何であんたが、そんな事に首突っ込むの?」
「きっちり自力で、うまく別れた後に教える」
「はっ。何なのそれ」
「察しろよ。でっかい事情があるんだよ、もんの凄くでっかいヤツが。そもそも俺が今まで、お前の女関係に口を出した事があったか?」
目を開けた泰成が、我慢できない、と言う様に言ってくる。あ、三田に戻った。
「……そりゃあ、無いけど」
「だろ? お前がどんなに女遊びをしても、果ては過去の女が忘れられなくてバカやっても、包み込む様な暖かい瞳でこう、見守ってやってただろ? そんな俺が今、アドバイスしてんだよ別れろって」
「包み込む様な暖かい瞳のくだり辺りは受け入れらんなけど、言いたい事は分かった」
拓也は、あしらう様に手を顔の前で軽く振った。
そしてチラッと泰成を見ると、胸ポケットから煙草を取り出す。
「ってやっぱよくわかんないけど。でも強いて言うなら、もう俺ら、別れてるよ」
「ほんとかっ!」
「うん。一応今週末に、けじめ旅行みたいなものに行くけどね」
「なんだそりゃっ!」
泰成は勢い良く立ち上がると、煙を吐き出す拓也を、仁王立ちで指さした。
「あり得ねぇ事、特大山盛りじゃねぇかっ! 人妻と旅行? けじめ旅行? お前ら一体何なんだよっ!」
「そっちこそ、だから一体なんなの? 俺に自力で綺麗に別れて欲しいんでしょ? だったら黙っててよ」
ジロッと睨み上げられて、泰成はグッと言葉に詰まる。
「……」
「……その目すら、うるさい」
「……」
目がうるさい、って何だよっ! こいつは何でこうも生意気で図々しい奴なんだっ!
こんな奴っ、こんな奴っ、俺と関わりにならない所でなら、象にでも思いっきり踏み潰されちまえっ!
……でも今は、俺の妹(ほぼ確定)とヤッっている身……今何かあると、俺まで絶対巻き込まれる……。
「えー、話って、コレ? じゃ、もうおしまい? なんか飲まして」
凄味ある目つきが一転、いつもの甘える表情に戻った。拓也がニコッと笑う。
一人っ子だけど長男気質の泰成は、彼のこの笑顔に、結局弱い。なんなんだよ、こいつ。
「ウィスキーでいいか?」
「いいでーす」
溜息をついて、グラスを二つ並べながら泰成は口を開いた。
「それで? 奏ちゃんと別れた後は、可愛い彼女に一直線なのか?」
「うーん。かわいいねぇ」
「お前ー。女を甘く見ると、後が恐ぇぞー?」
「それは泰兄を間近で見ていたから、知ってるよー」
丁度拓也がクラブに入ってきた頃、泰成は離婚のゴタゴタで揉めていた。その事を言っているらしい。
琥珀色の液体をグラスに注ぎながら、泰成は低い声で尋ねた。
「……じゃ、藤堂の事は、もういいのか?」
これは、拓也に聞きたかった、もう一つの事。
拓也の瞳が一瞬揺れたが、ウィスキーから反らされる事は無かった。
「……俺ね。自分が一番幸せになれる道を、手に入れたいの」
「……」
「それで、その道は、多分彼女には続いていないワケよ」
「……なんで分かんだよ。姉貴とセフレだったからか?」
瓶をテーブルに置いて、グラスを片手に向かいのソファに座りながら、泰成は聞く。
拓也は液体に口を付けながら、彼を見る事無く答えた。
「ああ、それデカイね」
「だって最初から分かってたんだろ? その時は藤堂の事をそれほど好きじゃ無かったって事?」
「そん時は、彼女には彼氏がいたの。俺、追っかける恋愛はもうこりごり。ましてや彼氏持ちなんてあり得ねぇ。揉め事とか略奪とか、超めんどくせーし」
「人妻に手を出した奴が、よく言うぜ」
「あれは俺が出されたの。それに奏さんのパワーに押されちゃって、逆らう方が当時は面倒臭かったくらい」
「おまけに藤堂を彷彿とさせるビジュアルだしな。フラッときた訳だ」
父親が違う、姉妹の癖してよ。
泰成は唇の片端を上げて、皮肉っぽく笑った。拓也は肩をすくめただけで、無言で酒を味わっている。
泰成は拓也を観察するように、その様子を眺めた。
「今はどうなんだ?」
「んー? お陰様で、いいお友達をさせて頂いてますよ。それに彼女、もう新しい彼氏がいるんだぜ。これがすっげー、いい男」
それを聞いて、一瞬目を見開く。
「……見たのか?」
「だってキスしてんだもん、ウチで」
「……」
「びっくりだよ、あんなイケメン俳優。泰兄、知ってるんでしょ? ありゃ太刀打ち出来ねぇって」
チラ、と彼を見上げた拓也の瞳は、珍しく笑っていなかった。口元は自嘲気味に上がっている。
そんな様子の彼を見て、泰成は再びイラッときた。
太刀打ち出来ない、という彼の言葉に、彼の熱がたっぷり込められている。
「……俺だったら、諦めねぇな」
睨みつけるように言うと、拓也の僅かな微笑がすっと消えた。
「……」
「ましてや一つ屋根の下。それが好きな女だったら、絶対、モノにする」
「……」
拓也は両肘を膝の上に付きながら、前屈みになって、じーっと泰成を見つめた。真剣な瞳。
「……あんたさ、さっきから俺を、どうしたいの?」
「……どういう意味だよ?」
「ここんとこ、色々俺の事を詮索してさ。それって俺じゃなくて、湊の事に興味があるからなんじゃね? 好きなのかよ、彼女が?」
どうしたいのか。そんな事、俺自身だってわかんねぇよ。色々あり過ぎて、混乱してんだよ。
泰成は、拓也を睨み返した。
だけどな、お前の事だったらわかるぜ?
「……だったら、どうすんだよ。この間みたいに、騒ぐのか?」
「……」
ふっと拓也が、視線を外した。
「身近な男に取られるのは、我慢ならないってか。本当に勝手な奴だな、お前」
「……」
「……あのなぁ、拓也」
泰成はいかにも上から目線で、拓也に言い放った。
「物事に対して、どれだけ本気で行動を起こせたか。それが人生を彩るんだと思うぜ? 仕事でもプライベートでも、恋愛でもよ。そこに手を抜いていると、いつか絶対、後悔する」
「……」
俺も大概、エラソーだよな。心の中で苦笑しながら、台詞を続ける。
「いい加減、カッコつけるのはよせ。もっと形振り構わず、熱くなれ。やる時も、やらない時ですら、熱く回避しろ」
「……何だ、ソレ」
堪らず拓也が、噴き出した。
それをしばらく見て、泰成も我慢が出来ずに噴き出した。
藤堂湊、今、人生の数少ない岐路に立たされています。
彼女は路上で、携帯電話片手に呆然とした。
え? これって今、どう言う状況? ちょっと落ち着いて?
問題です。電話の相手の女性は、誰でしょう?
湊は頭の中で、瞬時に様々なパターンを想定した。
①彼女(二股)
②仕事仲間(マネージャー込み)
③友人
④家族
二問目です。この場合、あたしの立ち位置は、どれがベストでしょう?
……よし、ここはお友達でいこう。
以上。約5秒。彼女は本来、大変リスク回避能力が高いので、心を決めたら瞬時に、いつもの作り笑いと作り声で喋りはじめた。
なるべく好感が持たれる様に、あえて多少どもり気味を演出したりして。
「あ、あの、私、虎太郎さんのお友達で、藤堂湊と申しますが「何だ、女だったの?」
電話の向こうでの、女性の不機嫌な声。
はい、②③④消えたー。
「虎太郎なら今、シャワーを浴びてるわよ。なんなら携帯渡してあげてもいいけど? コレ、防水だし」
「……あの」
「用件は何? 伝えるわよ。これから二人で食事するところだから。明日は二人とも午後からだし、その時おかけ直ししても、どうぞ」
二人二人、と強調する。
成程ね、と湊は思った。
まあ、あんまりいい気はしないけど。しょうがないか。
「あーっ、お前、何勝手に!」
そこへ僅かだけどハッキリと、虎太郎の声が聞こえた。遠くで叫んだらしい。
「やーだ、服ぐらい着てよ」
どこか得意そうに言う彼女に返事をせず、携帯をひったくる音がした。
「もしもし?」
「……」
こういう時の、理想的一問一答集、あったら売れると思うんだけど。ねぇ、なんて言えばいいの?
向こうで「え、湊ちゃんっ?」と言う焦った声がした。今気付いたのね、あの人らしい。
「ど、どしたの? え、電話くれた? もしもし」
「……うん、まあ」
「わ、ごめん、彼女の事は気にしないで、何でも無いからっ」
「早く服着て虎太郎ー」
「ケイっ!」
「なんなら着替え、出して来て上げようか?」
賑やかなやり取りが聞こえてくる。彼女が……ケイが強調した通り、二人は旧知の仲なのね。彼の着替えの場所が分かるくらいには。
あたしはまだ、彼の部屋には行った事がないけど。
「忙しそうだから、またかけ直すね」
「あ、湊ちゃん」
焦った声を残し、電話を切った。
携帯を見つめ、湊は溜息をつく。
悩みの種が、一つ増えてしまった。
あたし、これからどうすればいいんだろう? うーん……。
怒ってみせるのも? 泣いてみせるのも? 体力いるなぁ……。
むしろ素敵な理解を示せちゃう、自分がいるんですけど。こういう場合、ホント、どうすればいいんだろう?
……なんか、こう、ショックじゃない自分に、ショック。
それでもやっぱり、切ない思いもこみ上げても来る。
思ったよりも彼が好きで。
だけど想像以上に、冷めてる自分。
「……ケイ……お前……」
ギリッと虎太郎が彼女を睨んだ。
「何? 恐い顔して。あたし何にも悪い事してないよ?」
「人の携帯に出る時点で充分悪いだろっ」
「だって留守電に切り替わらないのが悪いんじゃない。仕事の話だったら大変だと思ったのよ」
「切り替わるよ、留守電に! 勝手に出るなよっ」
「何それ。こわーい、そんなに怒んないでよ」
ケイは派手めな化粧を施した顔で、わざとらしく膨れて見せる。
すっぴんの方が可愛いのにな、と思いながら、虎太郎は腰にバスタオルを巻いたまま、寝室に引っ込んだ。
服を着ながら彼女に言う。
「ほら、そこにDVDあんだろ? それ持って、サッサと帰れよ」
不満げに、まだごちゃごちゃと言い続ける彼女を、顔も見ずに冷たくあしらい続けたら、ケイは不服そうに頬を膨らました。
「……コタってさあ、あたしの事、好きじゃ無かったの?」
「……振った女が、よく言うよ」
「でも今、ここにいるじゃん」
「俺ね、今、彼女がいるの」
Tシャツとジレを重ね着、下はハーフパンツ。
服を着終わった虎太郎は、真っ直ぐに彼女を見下ろした。
「だから、悪いけど、全然ダメ」
「……それって、さっきのあの子?」
「ケイには関係ない」
「彼女がいなかったら、あたしとまた一緒にいる?」
懲りずに食い下がる彼女。その姿は、どこか自信に満ちている。
あの時あれだけ自分を追いかけた虎太郎を、今の彼に重ね合わせているのだろう。
可愛くてバカな、年下の元カノ。
「……物事には、タイミングって言うもんがあるだろ? 悪いけど、マジ、帰って」
そう言って彼女ごと、彼は自宅を出る。何処に行くの? と不思議そうなケイ。
やっぱ引っ越そう。
虎太郎は思った。
部屋のある建物(古いけど、結構立派なマンション)の前まで来た時、湊は人影を見つけた。
不審者か、と思って身構える。すると向こうが彼女に気付いた。
近づいてくる?
「湊ちゃん!」
声をかけられて、ビックリした。
「……虎太郎?」
「良かった、電話かけようか迷ってたんだ」
嬉しそうに駆けよってくる彼は、さっきビルの広告で見た姿と違い、生身の人間。
この人、やっぱり普通の人なのね。って何、呑気に考えてるの?
でも、何でここに?
驚いた彼女の表情を読んで、彼は苦笑いをした。
「すいません。……ストーカーかも」
湊は唖然としてしまう。と言う事は、あの電話の後、慌ててここまで来たって事?
「さっきはごめん。本当に、ごめん」
彼は深々と、彼女の前で頭を下げた。
そのまま、ジッと固まる。
……そんな、謝られても……
湊は僅かな焦りと共に、言葉を失ってしまった。
しばしの、沈黙が広がる。
「……なんか、言って?」
頭を下げたまま、虎太郎が言った。
湊は、益々困った。なんかって……。
「……なんか」
「……」
「……」
「……」
「……言ったよ?」
「あ、やっぱり?」
顔を上げた虎太郎が、慌てて作り笑いをした。
「本気台詞かと思って、待っちゃった」
「本気だよ?」
「……」
「だって何て言っていいか、分かんないんだもん」
絶句する虎太郎を、真顔で見つめる。
内心ちょっぴり、申し訳無い気がした。ごめん、ちゃんと怒れなくて。
けれどそんな淡白な彼女の反応に、虎太郎は益々焦った。
「彼女とは、何も無い。電話貰った時は、俺はたまたまシャワーを浴びていたけど、彼女には仕事上渡すものがあって、ちょっとの間だけウチに上がってもらっただけ。それだけ」
「……」
そっか、と湊は無言で頷く。
「俺、湊ちゃん以外あり得ないから。絶対、誰とも、もちろん彼女とも何も無いから。お願い、信じて。本当にごめんなさい」
正直、どうでも良かった。
騙されていても、いなくても。どうでもいい。仮に騙されていても、それすら自己責任。
……だからね、どういう顔をすればいいのよぉーっ。
「あのさ。こんなタイミングで言うのもどうかと思うんだけど。どうしても、言いたい事があって」
「……なあに?」
結局真顔で、小首を傾げる。だってここで笑うのも、変じゃない?
すると彼は、深呼吸をひとつして、言った。
「一緒に、住まない?」
「……スマナイ?」
「そう。住む」
「……それって……」
「うん。引っ越そう、一緒に」
「……ええ?!」
こ、これは分かるっ! 今はここ、驚いた顔だっ! というか、それしか出来ないっ!
「湊ちゃん、今住んでいる部屋、出たいんだろ? 俺も丁度引越したくってさ。……それに、一緒に住めば、お互い忙しくっても、会えるじゃない?」
な、なんですって??
「……まさに、なんでこのタイミング……」
「早すぎるかな、と俺も思ったんだけど」
いや、早いでしょ、滅茶苦茶。しかも浮気疑惑の直後に持ち出す話題ですか?!
少し赤くなって俯く虎太郎を、感心半分、呆れ半分で、とにかく驚愕しながら眺めた。
すると不意に顔を上げた彼と、目があった。
「俺、本気なんだ」
真剣な眼差し。
湊は、気押された様に感じた。
この人と、一緒に暮らす?
……そうしたら、あたし……
一瞬、頭の中が白くなった。
ヨシとは、もう繋がりが切れるんだ。
職場も、住居も。
ゴクっと、生唾を飲み込む。
それって。