0.5秒後の私に花束を
私は、快楽に生きている。先なんて、考えられない。端的に言えば、猿だ。いや、猿に失礼かもしれない。
私は、今を、生きていた。
私の人生は、平凡で、普通で、特に何をいうこともない。だからこそ、学生の頃のクラスメイトが、今の私を見たら笑うであろう。
「よくもまあ、あそこまで人って落ちれるんだな」って。
「何円?」
「何円でも」
「安売りはするもんじゃないよ」
「何円、でも。ただじゃないのなら、もう、それで」
そうやって、私は私を売っていた。
私は、もう落ちるところまで落ちた。もう、戻れない気がした。
「ねえ、あそこにいるのって学生時代の学年トップだった子じゃない?」
あ、誰かに見つかった。本当に、見つかってしまった。先程考えていたことが、フラグになってしまった。やっぱフラグって、立てるもんじゃないな。
「へえ、悲しいね」
先ほど想像してたよりも、何倍も現実は胸を抉った。
今日の朝の気分は最悪だ。
ゴミみたいな男に、ゴミみたいな自分。金もない、年もとった。今後はどうする? 生きていくアテすらない。明日のことすら、私は考えられない。猿、以下。
朝は苦手だ。夜みたいにみんな金をくれない。自分が堕落した人間であることを太陽に指摘されている気がする。その通りなんだけど。
でも、今日みたいな最悪な日は、外にでて太陽に指摘されよう、かな。ある種の、自傷行為、みたいな。
なんとなく、本当になんとなく、地下鉄じゃなくてバスを待った。太陽が、あるからかな。
バス停で、おばあさんに話しかけられた。
「バスはまだ、来ないねぇ」
「そうですね」
「あんた、こんな朝早くから仕事かい?」
「そんな立派な人間じゃないんです、私って」
「私もだよ、お揃いだね」
「おばあさん、お揃いなんかじゃないんです。明日のことすら考えられない、猿以下の人間なんです」
何を言ってるんだろう、見知らぬ人に。馬鹿らしい。変な人だと思われて終わりだ。でも、もう私は限界だった。
「そりゃ、私だって明日のことなんてわからないよ。でもね、明日が無理だったら、ちょっと先でいいんだよ。1時間先。それも無理なら、1分先、それも無理なら、1秒先、何しようかなって。それだけで、もう十分さ」
「それも無理なら?」
「じゃあ、0.5秒後さ」
「それって、もう今ですよね」
「それでも、0.5秒後にまだ私と会話しようって、思ってくれてるわけだろ? 立派だよ。おばあさん孝行だ」
なんでかはわからないけど、救われた気がした。今を生きている私が、0.5秒後あとの私のこと、考えることが、できるの?
「じゃあ、私、0.5秒後先、何すればいいと思いますか?」
「何がいいと思う?」
0.5秒考えて、私は答えた。
「0.5秒後の私は、きっと笑って欲しいんだと思います」
「素敵やね。じゃあ、0.5秒後に笑顔になってもらうために、あなたに鉛筆あげる」
鉛筆? なんで?
「息子が鉛筆工場で働いてるんよ」
そうなんだ。……そうだな、0.5秒後の私のために、
「私もそこで働けますか?」
おばあさんは、素敵な笑顔で笑ってくれた。




