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0.5秒後の私に花束を

作者: つばさ
掲載日:2026/04/21

 私は、快楽に生きている。先なんて、考えられない。端的に言えば、猿だ。いや、猿に失礼かもしれない。


 私は、今を、生きていた。


 私の人生は、平凡で、普通で、特に何をいうこともない。だからこそ、学生の頃のクラスメイトが、今の私を見たら笑うであろう。

 「よくもまあ、あそこまで人って落ちれるんだな」って。


「何円?」

「何円でも」

「安売りはするもんじゃないよ」

「何円、でも。ただじゃないのなら、もう、それで」

 そうやって、私は私を売っていた。

 私は、もう落ちるところまで落ちた。もう、戻れない気がした。


「ねえ、あそこにいるのって学生時代の学年トップだった子じゃない?」

 あ、誰かに見つかった。本当に、見つかってしまった。先程考えていたことが、フラグになってしまった。やっぱフラグって、立てるもんじゃないな。

「へえ、悲しいね」

 先ほど想像してたよりも、何倍も現実は胸を抉った。



 今日の朝の気分は最悪だ。

 ゴミみたいな男に、ゴミみたいな自分。金もない、年もとった。今後はどうする? 生きていくアテすらない。明日のことすら、私は考えられない。猿、以下。


 朝は苦手だ。夜みたいにみんな金をくれない。自分が堕落した人間であることを太陽に指摘されている気がする。その通りなんだけど。


 でも、今日みたいな最悪な日は、外にでて太陽に指摘されよう、かな。ある種の、自傷行為、みたいな。


 なんとなく、本当になんとなく、地下鉄じゃなくてバスを待った。太陽が、あるからかな。


 バス停で、おばあさんに話しかけられた。

「バスはまだ、来ないねぇ」

「そうですね」

「あんた、こんな朝早くから仕事かい?」

「そんな立派な人間じゃないんです、私って」

「私もだよ、お揃いだね」

「おばあさん、お揃いなんかじゃないんです。明日のことすら考えられない、猿以下の人間なんです」

 何を言ってるんだろう、見知らぬ人に。馬鹿らしい。変な人だと思われて終わりだ。でも、もう私は限界だった。

「そりゃ、私だって明日のことなんてわからないよ。でもね、明日が無理だったら、ちょっと先でいいんだよ。1時間先。それも無理なら、1分先、それも無理なら、1秒先、何しようかなって。それだけで、もう十分さ」

「それも無理なら?」

「じゃあ、0.5秒後さ」

「それって、もう今ですよね」

「それでも、0.5秒後にまだ私と会話しようって、思ってくれてるわけだろ? 立派だよ。おばあさん孝行だ」

 なんでかはわからないけど、救われた気がした。今を生きている私が、0.5秒後あとの私のこと、考えることが、できるの?

「じゃあ、私、0.5秒後先、何すればいいと思いますか?」

「何がいいと思う?」

 0.5秒考えて、私は答えた。

「0.5秒後の私は、きっと笑って欲しいんだと思います」

「素敵やね。じゃあ、0.5秒後に笑顔になってもらうために、あなたに鉛筆あげる」

 鉛筆? なんで?

「息子が鉛筆工場で働いてるんよ」

 そうなんだ。……そうだな、0.5秒後の私のために、

「私もそこで働けますか?」

 おばあさんは、素敵な笑顔で笑ってくれた。



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