第7話「No.441が来た日」
真意ちゃんが動いたのは二日後だった。
割れたルーペを机の上に置いて、別の調査を始めた。
監視カメラの記録だ。ぱんでむのフロアには十二面のモニターが繋がっている。記録は自動で保存される。妄執ちゃんも毎夜確認しているが——妄執ちゃんが確認するのは「退店後の外部カメラ」だ。
フロア内部の記録は——三年分、手つかずで残っている。
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真意ちゃんは三年前の日付を指定した。
No.441が来た日だ。
映像が出た。
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妄執ちゃんの記憶では——
No.441が来た。「あなたのことを知っている気がする」と言った。ダブルチーズバーガーを頼まなかった。お茶を飲んで、帰った。
それだけだ。
でも映像には——続きがある。
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時刻:午後二時十七分。
No.441がカウンターから席に戻った。
お茶を飲んでいる。急がずに、ゆっくりと。
普通の来客の様子だ。
でも——
午後二時二十三分。
フロアの壁が、一斉に揺れた。
七百万枚の写真が、ほんの一瞬——全部、同時に、わずかに動いた。
No.441が顔を上げた。
壁を見た。
止まった。
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真意ちゃんは映像を一時停止した。
No.441の顔が、止まっている。驚いているのか、怖がっているのか——どちらとも読めない顔だ。
でも、ちゃんと「見た」顔だ。
写真の壁を、見た。声が、聞こえたかもしれない。
真意ちゃんは映像を再生した。
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No.441が立ち上がった。
カウンターに向かった。
妄執ちゃんに——何かを言った。
妄執ちゃんが答えている。でも音声は遠くて、聞き取れない。
No.441がうなずいた。
南の出口に向かった。
出口を踏み出した。
外のカメラに、映った。
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ここまでは、妄執ちゃんが語った通りだ。
でも——
映像には、まだ続きがある。
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No.441が出口を出た後。
妄執ちゃんが一人で、フロアに立っている。
モニターを見ている。外のカメラを見ている——No.441がカメラのフレームの外に出るまで、見ている。
それから——
妄執ちゃんが壁を向いた。
七百万枚の写真を、見た。
長い時間、見た。
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真意ちゃんは映像を見続けた。
妄執ちゃんが壁に向かって——口を動かした。
音は入っていない。
口の動きを読む。
「……ごめんなさい」
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真意ちゃんは映像を止めた。
メモを取った。
*妄執ちゃんは知っていた。*
*写真の中に人がいることを。*
*No.441が来た時に、仕組みに気づいたことを。*
*それでも——翌朝、指名を承認した。*
ペンを止めた。
しばらくそのままでいた。
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映像をもう少し進めた。
外のカメラの記録に切り替えた。
No.441がぱんでむの外を歩いている。
まっすぐ歩いている。
そして——
立ち止まった。
振り返った。
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ぱんでむの方向を、見た。
長い時間——見た。
入口の方向を。フロアの方向を。壁の方向を。
何かを確かめるように。何かを決めるように。
それから——
まっすぐ歩いた。
フレームの外に出た。
映らなくなった。
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それが最後の映像だ。
真意ちゃんはモニターを消した。
手元のメモを見た。
*妄執ちゃんは知っていた。*
一行下に、書き足した。
*No.441も、知っていた。*
*知っていて——振り返った。*
*知っていて——来なかった。*
もう一行。
*来なかった、のか。*
*来られなかった、のか。*
*来ないことを、選んだのか。*
ペンを置いた。
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真意ちゃんは秩序ちゃんに通知を送った。
「報告があります。時間のある時に」
返信は早かった。
「今すぐ来てください」
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◇ 調査報告書(追報)
提出者:真意
対象:三年前の来店記録・カメラ映像
確認事項:
・三年前、No.441の来店時にフロアの写真が一斉に揺れた(映像確認済)
・No.441は壁を見た。声を聞いた可能性が高い
・No.441の退店後、妄執さんが壁に向かって「ごめんなさい」と発言(口話にて確認)
・No.441は外のカメラにて、退店後に長時間ぱんでむの方向を振り返っていた
結論:
妄執さんは写真の仕組みを知っていた。知っていながら、今日も承認している。
No.441は仕組みに気づいた可能性が高い。それでも「また来ます」と書いた。
未解決:
来なかった理由は不明。
*(秩序ちゃんによる返信)*
「……ありがとうございます。」
「一つだけ確認させてください。」
「映像の中で——No.441がカウンターで妄執さんに何を言ったか、読めましたか」
*(真意ちゃん)*
「音声が遠くて、正確には読めなかった。」
「ただ——妄執さんが少し、止まった後に答えていた。」
「何か——普通ではない言葉だったと思う。」
*(秩序ちゃん)*
「……妄執さんに聞きます。」
───── 既読のまま、返信なし。 ─────




