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第6話「…葵木くんじゃないとだめなの」

 ピンポーン


「まさか本当に来たのか?」


 ま、まずい…


 |さっき言っていた《俺のことが好きだという》ことが本当ならこの状況は相当まずい。


 姫野さんが本気を出したらいくら何でも好きになってしまう気しかしない。


 だからこそこのイベントは死ぬ気で乗り越えないと…!


 俺はインターホンにでた。


「はーい」


『こんばんは…、姫野です…』


「姫野さん?」


『ちょっとお願いがあって…』


「分かった。今行くね」


 そう言って俺は玄関に向かった。


 ドアを開けると私服姿の姫野さんの姿がそこにはあった。


 少し頬を赤らめてこちらを見つめてくる姫野さんはいつもに増して艶っぽかった。


「こんばんは姫野さん」


「こんばんは」


 俺が話しかけると少しもじもじしながらも答えてくれた。


「お願いってどうしたの?」


 俺がそう聞くとジッと目を見つめて黙ってしまった。


「姫野さん…?」


 何かを言いたそうに口を開いたり閉じたりしていた。


 まぁ何を言おうとしてるかは知ってるんだけどね。


「ご…ご、ごはん」


「ごはん?」


「………つ、作り《《しゅぎ》》ちゃったから一緒に食べてほしい…!!」


 一気に言い切った後姫野さんはハッと口をおさえた。


 そしてみるみるうちに顔は真っ赤に染まっていった。


「えっと…」


「お願いっ!」


「うーん、食べたい気持ちはすごいあるんだけどさ、いくらクラスメートでも男の人と二人はあんま良くないかも」


 それに、と言って続ける。


「姫野さん俺のことそんな好きじゃないでしょ?」


 本当はそんなことないのは知っているが断るため表面上仕方ない。


「いやそんなことないむしろすk………すごいいい人だと思う」


 すごい勢いで否定してきたけどなんか好きが漏れてなかった?


 気のせいかな、気のせいだよな。


 そう思わないと心臓が持たん。


「この前は緊張しちゃって…だから本当は思ってないこと言っちゃったりして……。謝って許されることじゃないと思うけど本当にごめんね?」


「そんな謝らないで!俺もめっちゃ気持ちわかるから」


「ほんと?」


「うん」


 すると姫野さんの顔はパッと明るくなり周りに花が咲いてると錯覚するくらいの満面の笑みを見せてくれた。


「でも今は大丈夫なの?緊張とか…」


「大丈夫!大事な気持ちに気づいたから!」


「っ、そ…そうなんだ」


「うん!」


「でも男の人を家に上げるのは別問題であんまりよくないかも…」


「葵木くんだから誘ってるの。他の人なら誘わない…葵木くんじゃないとだめなの」


「っ…!」


 それはズルい…


 頬を赤く染めて恥ずかしそうに目を逸らす姫野さんを俺も直視できなくて視線を泳がしてしまう。


「そ、それってどういう意味…」


「ひ…ひみつ」


 上目遣いで口の前で人差し指を立てる姫野さんの破壊力は凄まじいものだった。


 可愛すぎる…


「でも…」


「葵木くんは私とご飯食べるのそんなに嫌?」


「そういうわけじゃ…」


「じゃあ一緒に食べよ」


 その言葉の後一呼吸おいてから姫野さんは上目遣いで下から覗き込むように言った。


「だめ…?」


 ダメなわけないだろおおぉおおぉぉぉぉぉおおおぉぉおおぉ!!


 食べたい、一緒に食べたいんだ俺も!


 好きになっちゃダメだから…


 でもここまで言われちゃったらな…


 ………………………


 俺の理性、頑張ってくれよ。


「…いいよ」


「やった!」


 そう言って姫野さんは少女のように喜んだ。


「じゃあ部屋で待ってるから準備できたら来てね」


「あぁ分かった」


 そう言って姫野さんは部屋にうきうきの足取りで戻っていった。


 俺はドアを閉めてそこに全体重を預けた。


 そして髪の毛をかき上げながらずりずりとその場に座り込んだ。


「はぁー………」


 あんなの、


「あんなの好きにならない方がムズイだろ……」


 このむず痒さのわけを知ろうとしてはいけない。


 この胸が締め付けられるような感情に名前を付けてはいけない。


 全部、全部彼女(姫野さん)のため―――

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