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第4話「フォローリクエスト」

「………姫野さん」


 姫野さんがれいくん…?


 いや確かに女性かもしれないという説はあった、あったけど…


 …で、でもまだそうと決まった訳じゃない。


 もしかしたられいくんの彼女、とかの可能性だってあるし…


「隣の部屋だったんだね」


「うん」


 俺がそう尋ねるとそっぽを向きながら姫野さんは答えた。


 今日学校であんなことがあったばっかだから気まずさが限界突破しそうだ。


 でも俺は引かないで今一番聞きたいことを投げかけた。


「一人暮らしなの?」


「うん」


「そ…っか」


 あぁそうだよな。


 姫野さんが出てきた時から本当は分かっていた。


 姫野れい、姫野澪。


 こう見れば本人だってことは明確じゃないか。


 別に残念とかではない。


 れいくん、姫野澪に申し訳ないのだ。


 せっかくコラボまで誘ってくれたのにその相手の中身が俺だということに。


「あのさ…!」


「なに」


 俺は喉に引っかかってる言葉を本当に今言うべきなのか葛藤する。


 俺は配信者の葵木依織なんだ…っ!


 その言葉を言わなきゃ。


 これからの姫野さんのためだから、だから今言わなきゃ…!


 …………果たして本当にそうなのか?


 姫野さんのためと自分に言い聞かせながら本当は自分が楽になりたいだけじゃないのか?


 彼女を騙す、嫌われてる人とコラボする、そんな重荷から逃げたいだけじゃないのか?


 本当に彼女にとっての幸せは今ここで俺が”葵木依織”だと明かすことなのか?


 いや違う。


 彼女のためを思うなら彼女に気づかれないように関わることなんじゃないのか?


 きっとそうだ。


 だから…


「ごめん何でもない」


「そう。私買い物に行くからこれで」


 姫野さんはそう言い残すと部屋に鍵をかけ、まるでここにいたくなかったとでも言うように早足でその場を去っていった。


♢♢♢


 ベットの上で仰向けに寝転がり、腕を目の上に置き視界を遮断した。


 やっぱり俺のこと嫌いだったんだ。


 足早に去っていった姫野さんの背中を思い出しながらため息をつく。


 ある程度覚悟はしていたがそれが隣の部屋、そして俺の推しとなってくると話は変わってくる。


「さすがにくるなぁ」


 少し痛む心を庇うように遮断した視界も姫野さんとの記憶を鮮明に思い出すための補助の役割になってしまい手をどかす。


 急に差し込んできた電気の明るさに少し目を細めた。


 今この気持ちを吐き出す場所が欲しい。


 誰でもいい、この気持ちを吐き出したい。


「サブ垢…作るか」


 その時ふと思いついた。


 サブ垢ならこの気持ちを吐き出せるのではないか。


 そう思った次の瞬間にはもう身体が勝手に動ていた。


 メールアドレスを入力して、アカウント名、ユーザーIDを決めて本アカで告知をした。


 本アカのフォロワーは3万人いるためすぐにサブ垢のフォロワーも数百人程度に増えた。


 そして今の気持ちをスイートしようとした時、れいくんのサブ垢からフォローが来た。


 その時ふいに思い出した。


「れいくんのサブ垢…」


 れいくんのサブ垢に投稿されていたあのことはもしかして…


 れいくんのサブ垢をフォロバしてアカウントに飛ぶ。


 5分前にスイートされていた内容を見て俺は固まってしまった。


『あぁ~~~!!気になってる人とお隣さん確定したのに緊張しすぎてまた冷たくしちゃったよぉ~~~~~!!!!!!!どうしよう…嫌われちゃったかな…?』


「これって…」


 もしかして…いやもしかしなくても…


「俺のことでは!?!?」


 そしてそのあとすぐにゲーマー向けのコミュニケーションアプリのヴィスコードに通知が届いた。


姫野れい『依織君って高校生だったよね?』

葵木依織『そうですけど、どうかしたんですか?』

姫野れい『ちょっと相談があって…』

葵木依織『れいさん、その前に一つ良いですか?』

姫野れい『ん?』

葵木依織『答えられなかったら全然無視してくれていいんですけど、れいさんって女性ですよね?』

姫野れい『あはは~やっぱばれてたか』

葵木依織『隠さないんですか?』

姫野れい『まぁいつかはばれると思ってたしね~、それにこれから相談すること私が女子だって知ってから聞いてもらったほうがいいかもだし』

葵木依織『なるほど…?』

姫野れい『それでね、相談っていうのがこれが恋なのかどうかっていうのを判断してほしくて…』


 ………………………。


葵木依織『れいさん、それは自分で答えを見つけるのが一番だと思います』


 自分のことかもしれない、一瞬そんな思考がよぎってしまったのだ。


姫野れい『うん…そうだよね。せめて一つアドバイスとかは…?』


 これは絶対に俺のことなんかじゃない。


 そもそもあの姫野さんが俺なんかのこと気になるわけないじゃないか。


 きっと俺とは反対側のお隣さんのことを言っていたんだ。


 だから俺じゃないんだと確定させるために、


葵木依織『ピンスタグラムとかってその人と繋がってますか?』

姫野れい『いや、繋がってないよ』

葵木依織『じゃあまずその人にフォローリクエスト送るとこからですね』

姫野れい『わかった!がんばる!』


 姫野さん…可愛すぎるよ。


 でもこれで俺にフォローリクエストが来なかったら俺じゃないってことが確定する…


 ぴろんっ!


 通知音が鳴ったスマホに目を向けた。


【姫野澪 さんからフォローリクエストが届きました】


「…っっっ!!」


 その瞬間人生で経験したことのないほどの熱に顔一面が覆われ、声にならない声を発しながらその場でばたばたと騒いだ。


姫野れい『依織君!がんばったよ!うぅ~どきどきしたぁ~~!』


 再びヴィスコードに送られてきたその文章を見て悶えずにはいられなかった―――

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