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土砂降り聖女

作者: 細井雪

昨年、SNSで開催された企画への参加作になります。

文字制限2000文字以内の内容はそのままで、少し調整して投稿しております。




 雨の聖女――乾いた大地に恵みの雨をもたらす救世主。


 ……なんて言ったら聞こえが良いけど、現実はそうでもない。


「相変わらず聖女様の御力はすごいですね。雨で洗濯物が乾かなくて、もう着替えがないんですが」

「うるさいわね。男だったら気にするんじゃないわよ」

「聖女様ともあろう方が男女差別はよろしくないですよ」

「黙って馬車を進ませなさい!」


 隣でぶつくさ言う声が、雨よけに落ちる雨音と重なる。

 止むことのない雨の中を進む馬車には、雨の聖女である私と、御者も務める護衛騎士ガイの二人だけ。

 聖女の付き添いがたった一人というのは何とも寂しいけれど、その理由は私が雨の聖女であることに起因する。


 私がいるところはずっと雨が降るため、一つの場所に留まることができない。

 雨が降り過ぎると作物は育たないし、川だって水かさが増してしまうし、何より人々に嫌がられる。

 そのため雨の聖女ではなく、裏では土砂降り聖女なんて呼ばれている。

 実際には小雨かせいぜい足元がぬかるむ程度の雨で、たまに大雨くらいなのに。

 それに尾ひれがついて嬉しくない呼び名となった。


 そんな風に持て余されている聖女だけど、だからといって無下にもできない。

 もし干ばつとなれば、私の出番となるから。

 けれどそれ以外のときは邪魔な存在。

 そのため大陸中の国々が話し合い、私が一定の場所に留まらないよう、大陸中を巡礼する旅という名目がついた。

 実際は厄介払いだけど。


「聖女様、街が見えてきましたよ。あぁ、やっと新しい服と交換できる」


 ガイのしつこい声が聞こえて顔を上げると、大きな街が見えてきた。






 馬車は雨を引き連れながら街へと入る。

 街につくとその土地を治める領主が飛んできて、表面上は歓迎してくれる。

 そりゃそう、もし干ばつになったときは、雨の聖女を頼らなければならないのだから。

 街についた私とガイは、領主館や、ときには王宮に招かれて、至れり尽くせりの待遇を受ける。

 もちろん雨で乾かなかった着替えだって、真新しい物が用意される。

 けれど街に滞在して数日たつと、領主が気まずそうにこう言ってくる。


「聖女様はいつまでご滞在に……」


 するとガイがこう返事をする。


「聖女様は次の巡礼地までの立派な馬車をご所望です。あと着替えの服も」


 そうしたらすぐさま用意される。

 私はそんなこと一度も要求したことなく、この護衛騎士はいけしゃあしゃあと勝手に聖女の要求を騙る。

 けれど、私だって一つの街に長居するつもりはないので出立の準備をする。

 雨が降り続くと、子ども達が外で遊べなくなるから。


 私達は来たとき以上に盛大に見送られながら、雨の中また旅に出る。

 その繰り返し。

 雨を引き連れながら、永遠に旅をしなければならない。

 旅の最中は大きな街以外には滞在しないことにしている。

 聖女をもてなすのは大変な労力だから。


 そのため旅のほとんどは野宿となる。

 出発してしばらくすると、野宿にちょうど良い洞窟を見つけたので、まだ陽も高いけれど今日は休むことにした。

 どうせ先は急いでいない旅だから。


「……ガイ」


 馬車から調理道具を取り出し、野菜と干し肉のスープを作りながら、ガイに声をかける。

 街に滞在していない限り、食事は自分達で作る質素なものだ。

 ちなみに材料は、領主が用意してくれた服をガイが勝手に売って換金したお金で購入する。

 勝手なことをする護衛騎士だけど、私もあんなごちゃごちゃしたドレスは不要なので別に構わない。


「何ですか、聖女様」

「嫌になったらいつでも護衛騎士を辞めていいのよ」


 そう言うと、鍋をかき回していたガイの手が止まる。

 旅を始めたころは護衛の騎士も侍女も大勢ついていた。

 けれどいつの間にか、ガイ一人だけになっていた。


「今さら言いますか? もう何年も一緒に旅をしているのに」

「この何年、何度も言ってるじゃない」


 ガイが私の隣に腰を下ろす。


「俺は食べ物も水もなくて死にかけていたところを、あなたに助けて頂きました」


 昔、干ばつに見舞われた村で飢え死にしそうになっていたガイ。

 それ以来、聖女の護衛騎士としてずっと側にいてくれて、他の騎士や侍女達が去ったあとも二人で旅を続けている。


「俺を救った責任を取ってください」

「……本当に図々しい護衛騎士なんだから」

「今ごろ知りましたか?」


 うるさいし図々しいし勝手に服も売るけど、誰よりも私のことを気にして、側にいてくれる存在。

 肩を引き寄せられ、温もりが伝わる。

 ふと、洞窟の外が明るくなっていることに気付いた。


「……あ、虹」


 私達のいる場所は小雨が降っているけれど、通ってきた道の向こうは青空に変わり始めて、大きな虹が架かっていた。


「こんなに綺麗な虹が見られるのに、嫌になるわけがないじゃないですか」


 そう言って笑うガイの表情は優しい。


 雨のあとには虹が架かる。

 土砂降り聖女なんて呼ばれているけれど、こうして二人で虹を見ることができるなら、そう悪くもないと思えた。




読んでくださりありがとうございました!

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