表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第4話「リハビリ」

「あともうちょい歩いてくださいね」


「今日はもう終わりってことにしません?これ以上やると怪我が悪化する気が……」


 そう嘆く俺をよそに、看護婦さんは松葉杖を5mくらい先にある椅子に立てかけた。


「じゃ、頑張ってくださいねー」


「はぁ?え?ちょっと待……」


 看護婦さんは部屋を出て行ってしまった。


 俺が病室に帰るには杖があるところまで歩かないといけない。


 なんて理不尽なんだろうか。しかしまあ、国民学校にいたときは、孤児って理由でいじめられていたものだ。そんな俺にとって、これくらい今更……。


「って、やっぱり痛いもんは痛え!!」


 声にならない叫びを上げた直後、部屋の入り口に人影が見えた。


 看護婦さんが心配して戻ってきてくれたのかもしれないと、俺は期待に胸を躍らせたのだが……。


「君が、小谷コウくんかね?」


 そう言いながら黒い帽子を取ったのは、病院な人ではない怪しげなおじさんだった。


「はい、そうですけど。何か俺に用ですか?怪しげなおじさん」


「怪しげな……おじさん?」


 あ、やばい。口が滑ってしまった。どうしようぶっ殺されるかもしれん。


 そう思っていると、後ろからもう1人の男がひょこっと顔を出した。


「課長、やっぱりその服装は危ない匂いがしますって。なんかこう、マフィアみたいです」


「うむ。一理あるかもしれんが、私が昔会った本物のマフィアはもっと派手だったぞ?」


 話終わる感じがないので、俺は口を挟んでみることにした。


「あの、お2人は何をされに来たんですか?」


 怪しげなおじさんの方の男は、ハッとしたようにこちらを向き直した。


「これは失礼、私は警察のものでね。少々君にお尋ねしたいことがあって来たんだ」


「あー……それでしたら、あそこの杖取ってもらえますか?部屋で話しましょう」


 こうして俺の手には杖が戻ってきた。これで今日の分のリハビリをサボれる。


 バレたら大変なことになりそうではあるが……。


「さて、まず最初に聞きたいのは、君が遭遇した殺人鬼についてだが」


「あの、俺まだ殺人鬼がどういうものかよくわかってないんです」


「そうでしたか。では、簡単に説明しますね」


 そのあとおじさんは、“簡単に”と言ったのが嘘のように長ったらしい話をし出した。


 それを要約するとこんな感じだ。


 数年前からこの国ではテロが頻発しており、そのほとんどは“殺人鬼”と呼ばれる怪物によって引き起こされている。


 殺人鬼がどういう存在なのかは未だにわかっていない。そして最も怖いのは、殺人鬼化する人は、テロが起こる数日前に失踪した人ばかりということ。


 つまり、何者かが一般市民を殺人鬼に改造しているということになる。


「なんとなく分かりました。けど、俺あんまり顔とか覚えてませんよ?」


「重要なのはそこじゃない。その殺人鬼がどういった攻撃手段を取っていたかを聞きたいんだ」


「攻撃手段……ですか。そういえば、ソ連製の爆弾とか言ってたような気がします」


 俺の返答に、警察のおじさんは少し動揺しているらしかった。


「なぜ君はソ連製の爆弾だと思ったのかな?」


「俺を助けてくれたお兄さんが呟いてたのを聞いただけで、確証はないですが……」


 “ソ連製”ってことがそんなに重要なのだろうか。確かにアメリカに次ぐ敵国であることには違いないのだが。


「お兄さんに聞けばわかると思うんですが……」


 その時、病室の扉がガチャリと開いた。


「その人なら、あなたが目を覚ます前に退院されました。それより小谷さん、随分と早くリハビリが終わったようですが?」


「え……あっ。いや、ちゃんとやりました!」


「嘘なんてバレバレですよ?私あの後部屋の外からこっそり見てましたから。罰として明日は2倍の距離歩いてもらいますから」


「そんな……」


 返ってキツくなってしまった。こんなことなら真面目にやっておけば……。


「じゃ、おじさんたちはこれで失礼しようかな。リハビリ頑張れよ、少年」


「あっ、はい。捜査頑張ってください」


 警察の人たちは足早に病室を去っていった。


◇◆◇◆


 4月12日の夜、東京府内某所。


「ふぅ。やっぱり屋上での一服は最高だな」


「あの少年、いっそのこと殺しちゃったほうが安全じゃないですか?課長」


「まあそう焦るな。まだ勘づかれたわけじゃない。ソ連製ってことがバレたところでそこまで影響はないからな」


「それもそうですね」


 タバコの煙は風に流されていく。まるで風の前の塵が飛ばされるのを可視化するかのように。


「そういえばあの少年、組織の情報処理施設で見たことがあるような気が……」


「バーカ、気のせいだろ。だってあそこにあるのは古い情報ばっかりだ。それこそ第2次世界大戦末期のものとかな」


「そう……ですよね」


 2人は屋上の鍵を閉め、建物の中へと姿を消していくのだった。


◇◆◇◆


 数日後……。


「小谷さん、重要なお知らせです!」


 看護婦さんの言葉に、お見舞いに来てくれている綾瀬とベッドの上の俺は息を呑んだ。


「明日、退院できます!!」


「よっしゃあぁぁぁ!!!」


「よかったね、コウくん」


 これでやっと学校に通える。


 それだけで辛いリハビリをやった甲斐があると感じることができた。


「では。治療費はあとで分割請求しますから、住所を書いてください」


「分かりました!」


 こうして俺は、4月中旬頃に無事退院することが決まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ