第二部 第一章 5 ―― 俺は怖い ――
第九十八話目。
弱くても、意地はある……。
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あの粋がっていた強気はどこにいったのか。
故郷の町で最後に交わした言葉を、今になって後悔に苛まれた。
俺は強い。
そう自負していたのに、一度鬼と対面して逃げた俺に対し、ユラは自分の信念を通して鬼と戦っていた。
それも、大ケガを負っても心が折れることもなく、まだ突き進もうとしている。
そこが実力の差なんだと、痛感させられ、余計に虚しくなった。
自分は弱いんだと。
イリィ。
あの女の鬼、ラピスから聞いた娘の名前をまだ伝えられていない。
いや、俺はきっと言えない。
惨めな意地が邪魔をしていた。
ユラが休む部屋を出て、1人で別の部屋を探索していた。
素直に情報を与えるのは癪ではある。けれど邪険にするわけにもいかない。
レガートに住民の姿はないが、住宅などは整然と残されており、ユラが休んでいた家の別の部屋を探索していた。
書斎を探索していると、疑念は拭えないでいた。
鬼に襲われていたのならば、もっと建物が潰され、荒れ果てていてもいいはずなのだけど、残っていることが引っかかっていた。
ま、俺には関係ないけれ ――
机の引き出しには、数通の手紙が入っていた。
この家の主人の物だろう。封はすべて開けられている。きっと主が亡くなる前に届いたのだろう。
どうも勝手に見てしまうのは気が引けてしまうけれど、一通を手にすると、つい目を通してしまう。
一通読み終えたところで、大きく溜め息がこぼれた。
たいしたことはないな。
どうやら主に対して、近隣の町の知人からの手紙だったらしい。
町の近況報告や、世間話といった内容となっており、気に留めるものはなかった。
奴のほしい情報はないか。
厳重に保管されているわけではなく、大事な物でもないのだろう。
あいつはなんのためにレガートに来たんだか。
隣りの部屋で話すユラをつい眺めてしまった。
惨めな意地だけど。




