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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第一章  2  ――  惑わすなっ  ――

 第九十五話目。

 鬼の…… 声。

                    

             2



 寒気が背中に襲うと、独房のなかに不釣り合いな柔らかい声が響いた。

 女の声が。

 普段聞けば、心が落ち着きそうな声。

 ただ、俺には心臓に針を突きつけられたみたいに体が縮まってしまい、息を呑まずにはいられない。

 独房でそんな声を発する人物なんて、ユラがそれまで話していた女の鬼しかいないのだから。

 そのまま無視することもできた。

 それでも背中に受ける威圧感が胸を締めつけているみたいで、逆らえずに振り返った。

 鉄柵を隔てた先で足を崩して座り込む女の鬼は、俺に対して屈託ない笑みを献上してくれていた。

 黒髪が背中まで伸び、隙間風に微かに揺れている。丸い目でじっと見据えられると、心を奪われてしまいそうなほど、澄んでいた。

 鬼と信じられないほど温和な雰囲気を漂わせていた。


 だからユラは普通に話していたのか。


 固く身構えていた警戒心をすぐにはぎ取られてしまいそうな姿に唖然となるが、すぐさま気持ちが奮い立たされる。

 女の鬼の細い指先の爪が鋭く尖り、鬼であるのを示していたのだから。

 計り知れない威圧感に、身の毛がよだち、反射的に腰に下げた剣を抜き、剣先を鉄柵の奥の鬼に向けた。


「ユラを惑わすなっ」


 あいつは本来、己から剣を振り、人を傷つけたり戦いを好んだりする奴じゃなかった。ましてや、町を裏切るような愚行者でも。

 そんな奴を突き動かそうとした鬼。だからこそ、追い詰めていた。

 奴を変えてしまった鬼が憎らしくなって。

 こちらの怒りをものともせず、鬼は屈託なく笑い、俺の感情を軽くあしらってしまう。


「私は別に惑わしてなんかいないわ」


 笑みを崩さず答える鬼。平然とする姿がより憎らしくなり、剣を握る右手に力がこもる。


「ふざけるな。あいつは自分から危険を冒すような奴じゃない。きっとあいつがこれからしようとしていることは、人間を、町を敵に回すようなことなんだろ。そんなこと――」

「優しいのね」


 クスッと笑い、首を傾げて呟く鬼。あたかもユラの人格をすべて把握している、とした態度がより癇に障る。


「ああ、そうだ。それだけじゃない。あいつは甘い。そんな奴を――」

「あなたのことよ」

「――?」


 言い争うなか、間の抜けたユラの顔がちらつき、思わず声を上げていると、鬼はそれを遮る。


「あなた、ユラのことを真剣に考えているんでしょ」

「――っ」

「ユラのことが心配。彼には穏やかに暮らしてほしいんでしょうね。だからこそ、腹立たしくなる。違うかしら?」

 

 ……違う。

 俺はあいつのことを心配なんかしていない。町を見捨てようとしているのがムカつくんだ。

 絶対に心配なんかしていない。

 それなのに……。

  反論できない。


 違う……。

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