第二部 序 2 ―― 牢獄 (2) ――
第九十二話目。
成れの果て……。とでも言うのか。
2
「何か用か、部外者よ」
「町の長でもあったあなたが、よもや囚人扱い。堕ちたものだな」
ウリュウの態度からして、弱腰であれば言い込まれそうであり、半ば嫌味っぽく突き放してみた。
すると、ウリュウは鼻で笑い、壁に顔を凭れさせる。
「ワシは別に悪いことなんてしていない。町のためにと、行ったことを理解できない町の者が悪い。多少の犠牲がなんだ。何を考えているのだっ」
しばらく人と話していなかったのか、口火を開いて捲し立てるウリュウ。
窪んだ目を剥き出しにする様は、かなりの憎悪に満ちていた。
かなりの屈辱を味わい、打ちのめされたのだろう。しかし――
「話が掴めないな。我々が責められる所以ないのだが」
ここで荒いでもらちはあかない。ましてやことを荒立てては事情を掴めない。心なしか静かに聞いた。
「おいっ、この長は何が原因で投獄されているんだ?」
「いえ。それが町の者も口を揃えて噤んでしまい、何も話そうとしないのです。だから――」
「お前らもあの女が目的で、この町に来たんだろ。残念だったな。それなら取り越し苦労だ」
鍵を預かった兵士に聞くと、ウリュウが憎らしげに割り込み、口角を上げて嘲笑する。
「どうもきな臭いな。理由を話せ」
気遣う理由がなく、冷たく言い放つと、ウリュウは揚々と笑う。
「お前らの恰好、何やら鬼を退治する組織でも起ち上げたつもりか?」
我々は揃って黒い服を着ていた。袖口には黄色い装飾が施されている。
なんらかの組織を疑うのも当然か。ただ――
「そんなことはない。この町で何が起きたのかを聞いているんだ」
ウリュウの興味を無視し、先を促すと、首を捻り、面倒そうに我々から顔を背けた。
「ワシはただ、町の将来を憂いてことを進めようとしていたんだ」
逡巡したあと口を開くウリュウ。縛られた腕をギュッと握り締め、怒りを押し殺しているように見えた。
どこか語気も強くなっている。
自分が牢獄に収められた経緯を話すウリュウ。口調はすべてが遺恨に満ちた言動でしかなかった。
話を聞いていると、こちらが耳を疑いたくなってしまう。
「……酷い話だな」
話を聞き終え、率直な気持ちを吐露した。
本来なら、ウリュウを叱責したいのだが、本人は意にも返さず、こちらを睨んでいる。
「女の鬼を襲い、子を孕ます。常人が考える内容じゃないな。鬼の力は尋常じゃない。そんなことをすれば、町から男がいなくなり、町が滅亡したかもしれないんだぞっ」
浅はかな野望に町を巻き込む考えにいら立ち、つい語尾を荒げてしまう。
「何が悪いっ。どいつもこいつも近々のことしか考えていない。なぜ、先のことを見据えて考えることができないっ」
「鬼を相手にして先のことがあるか。そんな危ういことをしておいて、町が残っていること自体が奇跡で不思議なくらいだ。よくまあ、その鬼が町に報復しなかったな。その問題の鬼はどこにいる?」
ウリュウの話にこれ以上耳を傾けたくない。
「いえ、それがこの町の周囲に、そのような鬼は目撃されておりません」
「鬼がいない?」
部下に鬼の所在を聞くと、部下は眉をひそめてかぶりを振る。
なぜ、平然と町が成り立っているんだ?
「鬼は本当に報復をしていないのか。損じられん」
「あの女、絶対にワシは許さないからなっ」
部下の報告を怪訝に思っていると、ウリュウはさらに声を荒げ、感情を爆発させた。
「――女…… やはり、その鬼は町に訪れたのか?」
「あいつは絶対に許さないっ。あいつはワシの計画を破たんさせた。ワシをっ。それだけじゃないっ。あの坊主も絶対に許さないっ。あの2人っ。ワシを侮辱したことはっ」
「あの2人? 鬼は2人いたのか?」
2人……?




