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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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91/154

 第二部  序  1  ――  牢獄  (1)  ――

 第九十一話目。

 新たな話。

                         

           第二部

                       

            序


            1



 変な噂が流れてきたのは、数か月前であった。

 フォルテの町に奇妙な鬼が存在している、と。


 人は鬼に恐れていないし、鬼の被害がない。


 神妙な表情で伝えに来た兵士に聞くと、煮え切らない表情でどこかもどかしくもあり、自分の目で確かめたくなったのがことの始まりだったのかもしれない。

 ただ、

 フォルテの町に訪れると、複雑な表情に納得せざるを得なかったけれど、困惑に唇を噛んでしまった。


 なぜ、そんなに危機感を抱かないのだ?


 町を行き交う住民を引き止めて聞き出したいほどに、穏やかな時間が流れていた。

 話では近くに鬼が存在しているはずなのに、何も不安を見せていないのが、どうも受け入れられなかった。

 それどころか、腰に剣を下げた集団で現れた我々を、好奇な目で眺め、警戒を深めていた。

 我らに苛立ちすらぶつけるみたいに。

 冷たい雰囲気に感情を押し殺すのが精一杯であった。

 不快さをぶつけまいと、平静を装いながら歩いていると、1人の兵士が血相を変えて走ってくるのが見えた。


「どうした?」


 私のそばで肩を揺らす兵士。どうも胸騒ぎが強まり、息つく間も与えず、急かしてしまう。


「それが、どうも町の外れに罪人を収監する独房があるらしいのですが、そこに収監されている者がどうも……」


 どこか言い淀む兵士。

 しばらく逡巡すると、辺りの住民らに気をかけたあと、私のそばに寄り、


「どうも、この町の長が収監されているようで」


 小声で耳打ちする態度に眉をひそめてしまう。



 

 

 「どういうことだ? 町の長が収監されるなんて。何か大罪でも犯したのか?」

 

 足早に向かったのは、町の奥にあった木造づくりの古びた建物。

 見るからに粗雑な小屋に向かいながら、疑念をこぼす。

 兵士はわからない、とかぶりを振るだけ。状況は掴めずにいた。

 小屋の入口にはもう1人の兵士が待っており、住民から鍵を預かっていた。

 入り口の扉を開けて足を踏み進めると、小屋は薄暗く、昼間であっても明かりがほとんど入っていなかった。

 中央に奥に進む廊下があり、左右に牢獄となる櫛状の柵で隔てられた、小部屋が並んでいた。

 部屋は建物を通じて薄暗い。

 牢獄の壁には、上部に小さな窓があるだけで、そこから薄っすらと外の光が申しわけなさげに差し込んでいるだけ。

 窓が小さいのは脱獄を恐れてか?

 ……にしても、こんな小さな町でこれだけの厳重さ。罪を許さない町の方針とでもいうのか。

 

「こちらです。隊長」


 薄暗い牢獄に目を奪われていると、先を進んでいた兵士が道を譲った。

 どうやら、ほかの牢獄に収監されている者はいないようだ。

 促されて先に進むと、中央の廊下の正面にも部屋はあり、暗闇に薄っすらと人の輪郭が浮かび上がっていた。


「お前が長のウリュウか?」


 木柵の前に立ち、闇に隠れた人影に問いかけた。

 名前は住民から聞いていた。

 しかし、今でも信じ難い。町の長ともあろう者が収監されているのが。

 名前を問うと、影が動き、顔を思しき輪郭が上がる。

 奥まった目がギロリと光る。

 ウリュウと呼ばれていた人物は、牢獄の奥に胡坐を組んで座っており、こちらを威嚇するように、じっと睨んできた。

 粗雑な白い服装で、袖から覗く腕は細く、年老いたシワが生々しく映っていた。

 手と足には囚人を物語る手枷がしっかりとしており、自由を奪われた状態でいた。

 それでいて、部外者である我々に、明らかに敵意を剥き出しにしている。

 年のせいか、目は窪み、多少の修羅場をくぐり抜けたであろう、威厳を放っている。

 我々にまったく怯える様子はなかった。


 罪人として。

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