第一部 終 ―― 待っているわ ――
第九十話。
遠くで感じる。
第一部
終
長らくいきていたけれど、不思議なこともあるんだと、驚かされてしまう。
ただ、それ以上に嬉しさの方が勝っていたのかもしれない。
それは夢のような感覚。
私は誰かの体に憑依し、その体で粋がった鬼と戦っていた。
ま、鬼と言ってもモブ。大して楽しい遊びにならなかったんだけど。
だからつい、夢だったとしても文句を言っちゃった。
まだあんなバカな鬼もいるのね。鬼の質ってのも低くなったのかしら。
けど、憑依していた者は面白い感覚だった。はっきりと覚えていないけれど、私に意見をぶつける人間もいたし。
あれは本当に楽しかった。
だからつい、願ってしまう。
あの感覚が夢じゃなければいいのにって。
目が覚めたとき、遠くの空で雷鳴が光った気がした。
不思議と、夢のなかでみた光景とがどこかで繋がっている気がして、胸が熱くなっていく。
けれど残念。空は見渡す限り快晴が広がっている。
雲一つない空を見ていると、期待をすべて否定されたみたいで、どこか自分たちの存在を拒絶しているみたいで、嘲笑してしまう。
「私たちは邪魔なのかしら?」
誰も答えないと知っていながらも、問いかけてしまう。すると、風が頬を撫で、赤い髪を靡かせた。
ふと手を当てて耳にかけた。
誰もいない草原に風が走り、草花を靡かせていく。その風に導かれるように、在らぬ方向を眺めてしまう。
やはり、どこかで雷鳴が光った気がしてしまう。
そうか。あそこにあるのね。
あそこにあるのは…… 黄色い光かしら。
「どうなるのかしら。あなたは何を求めてここに来るのかしら?」
遠くの空に右手を伸ばし、問いてしまう。
鬼はなぜ戦う?
なぜ、〝修羅〟となることを望む?
誰だったか、何度も問われて聞き飽きていた。
そんなものは知らないわよ。
戦えばそこにいただけ。
きっとあなたも様々な疑念を抱くでしょうね。
「その先はいずれ〝兵〟になって、私の前に現れるのかしら?」
手の平をギュッと握り締めた。またしても風が強く吹いた。どうも私の問いに答えたみたいで、目を細めてしまう。
面白いわね、それは。
「待っているわ」
第一部
完
これからどうなるものか……。




