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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき
9/103

第1章  7  ――  抑止力  ――

 第九話目。

 さてさて、どうしよう?

                     

            7



 ウリュウは僕の問いに返答を困っていた。すっと目を閉じ、しばらく黙ってしまう。

 さらには、扉の男らも気まずそうに僕から目を逸らす。

 何かを隠しているのは明らか。うつむくウリュウをじっと睨んでしまう。


「……その通り。鬼を失うことは我々にとっても困る一面があります」

「――長っ」

 

 顔を上げ、自分らに思惑があることを認めるウリュウ。男2人が声を荒げ戸惑うが、またしてもウリュウが手で制すと、男らは従って口を噤んだ。


「鬼というのは恐れ多き存在であります。ですが、鬼そのものがある種の抑止力になるのです」

「抑止、とは?」


 意図が掴めず眉をひそめていると、ウリュウは一度頷き、窓の外を眺めた。

 何かあるのか、と釣られて眺めると、漆黒の空にいくつかの淡い星が光を放っていた。


「鬼とは自尊心が強く、独占欲もあると聞く。人からしてみれば、体には似つかない力もあり、屈強な男であってもものともしない。数人がかりであっても、細い腕や鋭い爪でいとも簡単に返り討ちになる。しかし、その自尊心の強さからか、縄張り意識も強い。だからこそ、鬼同士が互いの縄張りを冒すことを避けている。片方の力量が高ければ、なおさら。だからそれが狙いなのです」

「鬼がいれば、別の鬼が近づかないと?」


 ウリュウの主張を聞いていると、多少なりとも言い分はわかる。


「だからこそ、この町の者はみな、鬼を利用できないものかと考えているのです。鬼の抑止力として、結果的に町を守れればと」

「でも、その話には矛盾がありますが」

「矛盾?」


 本音としては、「楽観的」だと強く指摘したかったけれど、言葉を和らげると、ウリュウの窪んだ目尻が吊り上がる。


「鬼の習性を利用しているけれど、前提として先住した鬼が町を襲わない、というのが前提でしかない。だが、そんな保障なんてないはず」


 核心を突いたつもりでいた。しかし、ウリュウは僕の話を聞き流しているのか、反応を見せない。


「それに、鬼は人を糧にしようとする鬼もいる。そういう奴がいれば、町は安全とは言い難いけれど?」


 昼間の鬼のことが頭をよぎる。奴は完全に人を見下していた。


「ええ、もちろん。これは危険と隣り合わせなのかもしれません。ですが幸い、町の近くにそのような考えの鬼はいないので安心でしょう」


 ――? 昼間の鬼はこの町に気づいていないのか?

 どうも話が噛み合わない気がしてならない。だからだろうか、ずっと胸に竦むモヤモヤが晴れてくれない。

 きっと自分らの考え、方針に一片の欠落がなく、自信に溢れた表情で構えているのがどうも気に入らないんだ。

 こいつらは何も知らない。だからムカつくんだ。

 どうも3人ともが僕を蔑んでいるみたいだ。


「あなたはどうやら鬼を探しているようだが?」


 嫌悪感に眉間にシワが寄りそうになっていると、一泊置いてからゆっくりと口を開くウリュウ。

 急に冷静な口調になる態度に、緊張が走り下唇を噛んでしまう。嫌な予感しかしない。


「まことに勝手なのだが、あなたのように鬼に敵意を抱いている者がいるならば、鬼が近づくと我々は考えているのだが」


 と、軽蔑した目でベッドの脇の剣を睨んだ。


「どうも僕はこの町に嫌われているみたいですね」


 わざと目を逸らし、窓の外を眺めながら皮肉めいて呟くと、ウリュウは申しわけなさげに鼻を擦る。


「今、言ったようにこの町は針の上にあるように危うい。だからこそ、気を悪くせず聞いていただきたい」


 トンッと杖の先を一度床に突いて注意を集めると、ウリュウは僕をじっと見据え、


「ユラ殿。あなたは明日にはこの町を出て行ってはくれないだろうか?」


 嫌われました……。

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