第7章 8 ―― 混血 ――
第八十四話目。
さてと。どうするべきか……。
8
この子と遊びで戦ったのはどれぐらい前だったっけ?
自分に問いながら、爪の刃で剣を弾いた。
あのときは私も本気を出していなかったけれど、どうも違う。
今は気を張っていないとついていけない。
目を光らせて猛攻を続けるユラ。
……やってくれるじゃない。
いつしか私も笑えなくなっていた。しっかりとユラの動きを追わないと、かなりの致命傷を受けてしまいそうなほど、押されてしまっている。
防戦だけじゃ、いつか崩れる。
ユラが一撃を避けたとき、爪を下から上に振り上げた。
あの女の子には悪いけれど、こっちも倒す気で戦わないと負ける。
だからこそ、渾身の一撃に近かった。
傷を負わせれば、多少の隙はできるはず。
と自信に溢れた一撃だったのに、爪は空を斬った。
「――っ」
ユラは地面を蹴り上げ、空中で逆さになり飛んでいた。不自然な状態でいながらも、黄色い眼光で私を捉えている。
私を睨んだまま、体を回転させて着地すると、ステップを踏んで距離を取る。
……やってくれるじゃない。
私が遊ばれてる。憎らしいわね、本当に。
仰々しく睨むユラに、頬が引きつってしまう。こんなに必死に戦ったのっていつだったっけ……。
改めて構え直し、足に力を入れた。深く息を吐き捨てると、ここまで追い詰められたのはいつなのかを思い出した。
「……そっか。修羅と戦ったときね」
あの肌を針でずっと刺されているみたいな痛みがずっとあるのは、修羅と戦っているときと似ていた。
目の前にいるのに、ずっと高い場所から見降ろされているみたいな、力の差を肌に受けてしまっていた。
けれど、どうして?
こいつってこんなに強かった? この短時間で急成長でもしたっていうの? そんなことある?
それにこの人離れした動き。これは……。
「……鬼の動――」
考えがまとまらないでいると、そこに突きが迫る。咄嗟に爪で弾くが、思うように弾けない。
ユラの腕を振り払えないでいると、そのまま剣を振りかざしてくる。避けるのは無理で、爪で受け止めた。
だが、力が強くて右手を左手で押さえなければいけない。
この剛腕。人間じゃあり得ない。なんで……。
「――っ」
ユラの脇に一度蹴りを入れた。それを余裕で体を捻らせて避けるユラ。避けられるのは想定済み。その間に後ろに下がり、間合いを取るとしゃがみ、ユラを睨んだ。
「あんた、もしかして〝混血〟?」
思い当たることが1つあり、そのままぶつけた。けれどユラは答えない。
「混血って何?」
それまで唖然として黙っていたアカネが驚愕の声を漏らす。
「そのままよ。鬼と人間との間にできた子供ってことよ」
視線を外さないまま答えると、アカネは戸惑う。
「そんなことってあるの?」
「あるんじゃないの。あんたの婆ちゃんや、ラピスみたいな希有な鬼がいるのよ。人が鬼に、鬼が人に惚れるってことも、あるんじゃないの」
それに、私を襲おうとしたクソみたいな人間もいたから、どちらの親が鬼であれ、最悪の場合もあるからね。
それはそれで問題かもしれないけれど。
「そんな…… ユラが鬼の子?」
「答えなさいっ。あんたは混血なの?」
私だってこんな状況は初めて。信じるなんて難しいわよ。思わず声を荒げちゃったじゃじゃない。
ユラは答えず、黄色い目を光らせてこちらを睨んだまま。
さてと。これからどうするべきか。混血なんて力が読めない。
「うおおおあああっ」
刹那、急にユラは咆哮を挙げた。
身を屈め、獣が獲物を威嚇するみたいに。
なんなの、これ……。
なんなのよ、これっ。




