第7章 7 ―― 本気みたいね ――
第八十三話目。
……ユラ?
7
得体の知れない黒い靄。
どんな悪影響を及ぼすのかわかっていなくても、それが体にとっては絶対に危険な存在だって誰だって理解できる。
それなのに黒い靄に近づいていくユラが信じられなかった。
けれど、また体が恐怖で動いてくれず、叫ぶだけが精一杯。
ユラに迫る靄は、次第にユラの体を侵食していき、体を呑み込んでいった。
何もできずに呆然としてしまう。
影がユラを包み終え、しばらくすると靄が晴れてユラは解放された。
ただ、姿を見せたユラに目を剥いた。
ユラは先ほどのネグロみたく、肌までが浅黒く、全身に暗いオーラが漂っているみたいに見えた。まるで……。
「……贋鬼?」
ヒスイが目をひそめ、呟いた。私の疑念を払拭する言葉。
「……そうよね。なんで……」
頷きながらも、その不穏な雰囲気に後ずさりしてしまう。
「でもそれって、鬼にだけに出る症状なんじゃ」
「そのはずなんだけど」
疑い深く声を潜めるヒスイ。そこでうつむいていたユラが顔を向けたとき、声が詰まってしまう。
こちらを睨んだユラの目は、黄色く光っている。
黄色……?
「……これって鬼じゃん」
ようやく声がこぼれ、横を伺うと、ヒスイはユラを睨んで嘲笑していた。
どこか今にも攻め立てそうな雰囲気に見えてしまう。
すると、ユラはこちらに正面を向けると、歩を進めた。
刹那、視線が急激に動いて空を捉えてしまう。視界の隅ではヒスイが乱暴に伸ばした右手を捉えた。
突然、ヒスイが私を突き飛ばしたんだ。無様に地面に尻もちを着き、痛みに頬を歪めた。
「本気みたいよ」
なかば憎しみをぶつけたとき、ヒスイは指の爪を伸ばして身構える。視線をユラに移すと、ユラはすでに剣を抜いて構えていた。
「そんなのダメッ」
「あの子はそうじゃないみたいよ」
ヒスイが嘲笑して呟くと、忽然と姿を消した。
同時にユラの姿も。
戦う、の?
戦う? なんで?




