第7章 1 ―― 我慢 ――
第七十七話目。
体が重い。
第7章
1
どこか鼓膜の奥に届くものがあった。
何かわからないでいると、目の前に広がるのは真っ白な空間。天地も左右も重力すらも無視したところに、僕は立ち尽くしていた。
捉えたのは目の前にいる1人の女の姿。知らない女の姿に唇を噛んでしまう。
赤みがかった長い髪を靡かせた女の後ろ姿。
声をかけようにも、口が開かず喉が痛くなる。
「あなたは何を思う?」
振り向かないまま唐突に問われてしまう。急だったせいか、言葉に詰まってしまい、上手く返事ができない。
「どうすればいい?」
さらに問われてしまうが、どこか寂しげに聞こえた声に戸惑ってしまう。誰だかわからない声だけど、細い声はすっと胸に沁み込んできて、痛みを誘ってしまう。
胸に手を当てると、激しく動揺していた。
「なんで?」
さらに問いは続く。
「なんでこんなに辛いの?」
赤髪の女はどこか震えてしまっているみたいなのだが、声をかけることができない。
足が動こうとしてくれない。
「ねえ、変われるのかな? どうすればいい?」
どうすればって、何も状況がわからないんだ。答えようがないじゃないか。
何もできない歯痒さに襲われながらも、体の自由は利かず、空しさだけが積もっていく。
「ねえ、あなたもわかるんじゃない?」
…………
「我慢をしているんじゃないの?」
我慢…… 何を我慢しているって言うんだ。
無言の問いを投げかけると、それまで動かなかった女が振り返る。
赤い髪が頬を撫で、影を覆っているせいか、曇っていて表情を読み取ることができない。
僕が我慢?
近づく姿にもう一度問うけれど、やはり声は発することはできず、喉の奥で崩れてしまう。
途方に暮れていた間に、女は眼前に辿り着いていた。彼女はうつむき、やはり表情は伺えない。
そばに来ると、計り知れない圧迫感があり、緊張に襲われて体がより硬直してしまう。
しばらく無言のまま向かい合っていると、不意に女は僕の胸に右手を添えた。
なんだろう。手に温もりを感じることはない。けれど、触れられている間に、何かが吸い込まれていく感覚になっていく。
体が浮き上がっていく浮遊感に包まれる。
どこか意識が薄れていくとき、女は顔を上げ、ふと笑みをこぼした。
誰?




