第6章 4 ―― 弱くなった ――
第七十二話目。
修羅ねえ……。
4
意識がふと現実に戻りと、頬にできた青い痣をなぞってしまう。
あのときのキスはなんだったの?
ネグロが変貌した小さな影を眺めていると、そんな疑問を浮かべてしまう。
思っているよりも、自分の指が冷たかった。目の前の影に修羅を連想して怯えているってこと? 情けないな。
自分を叱咤すると、両手を構え直した。
ま、こいつが修羅と同じ動きをするとは思えないけれど。
困惑する気持ちを引き締めたときである。
警戒していた影がこちらに向いた気がした。修羅の顔を重ねてしまい、屈託なく笑った気がした。
息を呑んでしまう。急激に背中に悪寒が走って喉が乾燥していく。ダメね、私怯えているのかしら?
自分の情けなさに嘲笑していると、風が2人の間を駆け巡る。その風によって影が散っていってしまう。
まるで先ほどの黒い靄が砂みたいに流れ、影は散った。
すべての靄が飛び散ったとき、そこにはネグロの姿も。
その場に私だけが残った。
静寂が通路に居座ろうとすると、不意に腰を下ろし、髪を掻き上げてしまう。
私、怯えていたわね…… それとも、私が弱くなった……。
あのときからかしら。私が戦いに興味を持たなくなったのは。
どこか、戦うことが虚しくもなったんだよね。修羅に負けて、意味もなく生きていくってのが。何度も修羅に挑むのもバカみたいだし。
ある意味、鬼の呪縛から解き放たれたのかな。
でも、遊びすぎたかしら。自由を手に入れても、あんな雑魚に舐められてしまうんだから。
急に嫌なことばっかり起きているみたい。どうも、この町は私にとって相性が悪いみたいね。
殺風景な街並みを眺め、踵を返そうとすると、肌がまたひりついた。
「……人の気配?」
怯えてた……。




