第6章 3 ―― 修羅の姿 ――
第七十一話目。
戦いの話。
3
その圧倒的な力は孤高であり、立ちはばかる姿は見惚れてしまうほどの美貌であった。
荒れ果てた荒野に立ち、赤い髪が風に靡き、乱れを整えようと手で掻き上げる。
私は岩に凭れ、その孤高の姿を眺めるしかなかった。
動くことはできない。手の爪はボロボロ。きっと指の骨も折れているでしょうね。
ってか、体が重くて言うことを利いてくれないし、視界は血で霞んでいる。
本当に最悪。
まさかこんなに力の差があるなんてね。私もバカだったのかしら。
視線を上げると、漆黒の空が私を見下ろしている。稲光は駆け巡ることはなく、より私を絶望させた。
バカみたいね、私……。
視線を落とした先にいる女。〝修羅″を見つめて嘲笑してしまう。
目の前に立つ鬼。〝修羅〟に私は負けた。きっと私は殺されるのでしょうね。
でも動けないし、いいか。もう。
覚悟を決めたとき、修羅は私の視線に気づくと、屈託ない笑みを浮かべ、こちらに歩を進めた。
背はそれほど高くない。でも整った顔は恫喝な鬼とはかけ離れた穏やかで、幼さを残している。
ま、綺麗さでは私が勝っているんでしょうけれど。
修羅は私のそばに来ると、しゃがみ込み、私の顔を覗き込んでくる。不思議と恐怖もなければ、苛立ちもなく、穏やかな思いで修羅の目に魅入ってしまう。
幼さの残る優しい笑みに。
すると、唐突に私の顎に右手を添えた。
「お前、面白いな」
顔に似つかない冷徹な声が鼓膜に通る。
そして気づいたとき、修羅は私にキスをした。
修羅、か。




