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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき
7/102

第1章 5  ――  願い  ――

 第七話目。

 鬼と会話?

                    

           5



 全身から一気に血の気が引き、息が詰まった。反射的に腰の剣に手が止まり、身を屈めて身構えてしまう。

 瞬時に放たれた殺気に、忘れていた恐怖に体を硬直させられ、改めて認識させられる。

 ラピスが鬼であると。

 殺される―― 全身に駆け巡る警告にラピスを睨みつけると、ラピスの険しかったはずの表情が緩んだ。

 厳格だったのか、と疑う間に、ラピスに穏やかさが戻り、殺気は消えていた。


「あなた、大人しい見かけによらず、かなりの手練れのようね。ここの警備を任されるだけのことはありそう」


 僕の構えを楽しみながら、ラピスは顎を擦る。


「ごめんなさいね、ユラ。ただちょっと遊んでみただけよ。安心なさい。ここを出るつもりはないわ」

「お前……」

「確かに逃げるという捉え方も一理あるわね。もしかすれば、そうかもしれない」


 嘆くように呟くラピスに怖さはなく、剣を鞘に戻した。


「それでも私は鬼。娘を気にかける一方で、鬼としての本幹も消えていない。人間に対して干渉する自分に嫌気が差してしまう気持ちがある」


 と、ラピス自分の首を右手で掴み、爪を立てた。


「鬼としての本能を忘れられないのよ。だからこそ、戦いを捨てた私自信に嫌悪感があり、鬼としての価値はない。生きているのは恥なのよ」


 耳を疑ってしまう。

 自分を否定するラピスに淀みはなく、本音であることは伝わる。だからこそ、揺るがない姿勢に動けない。


「――恥? だから、子供に会うことよりも、命を絶つことを望むと?」

 

 またしても言葉に棘が混じる。ただ、今度はラピスも殺意を放とうとしない。


「あなたはそうして責めるでしょうが、私はそれを否めない。これが鬼のプライドなんでしょうね。娘から逃げても、それからは逃げられないのよ」


 立場を悟っているのか、落ち着いた様子で髪を撫でていた。


「それって…… それって寂しくないか?」


 柵の奥で佇む姿がとても小さく映り、儚くなって自然とこぼれた。


「ほんと、あなたは面白い。そこまで鬼に気遣ってくれる人間がいるなんて驚きよ。でもね」


 それまで穏やかだった口調にまた棘が戻り、背中が寒くなる。


「でも、気をつけなさい。それだけ鬼に感傷的になるのは、自分の身を苦しめることになるかもしれない。いずれ人間はあなたを蔑むことになるかもしれないのだから」


 ラピスの言動は、見えない恐怖を沸き立たせ、体から熱を奪っていく。

 それは鬼に抱く恐怖とは違う怖さが。


「……それは僕に対しての忠告なのか?」


 人の冷酷さに負けたくない一心から強がってしまうと、ラピスはゆっくりとかぶりを振る。


「いいえ。これは命令ね。私みたいな鬼に感傷的になる必要はないから」

「でも、それじゃ」

「ありがと。でも、私の尊厳を立てて」

「尊厳って……」


 ダメだ。どうも僕はラピスを〝人〟と同じ感覚で捉えようとしている。心の奥から計り知れない熱が込み上げてくる。


「そんなの悲しいだろ」

「気にする必要はないわ」


 ラピスの忠告通り、深く関わるべきではないのか、とためらって、どこか自分をごまかしてしまいそうだ。


「そう。だったら」


 感情を押し殺していたとき、ラピスがまた首を傾げる。


「私の願いを1つ、聞いてくれる?」


 鬼は怖くない?

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