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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第5章  10  ――  卑劣  ――

 第六十七話目。

 街がおかしい。

                    

           10



 住民らの目つきが変わった。

 いや、僕の気持ちのせいかもしれないけれど、誰もが獰猛な獣みたく、鋭く吊り上がった気がした。

 爪を元に戻すツルミ。悠然と腕を組み、周りの住民らがツルミのそばに集まっている気がする。


「何が目的なんだ?」


 1つの場所に鬼が集まるなんて、信じられない。


「それは鬼の性分だろうな」


 得意げに頷くツルミ。


「我々は〝兵〟になるためだ。修羅を倒すために」

「修羅を倒すって、それは群れを組むことに何が結びつくって言うんだ」

「何も、修羅に挑むのは1人とは決まっていない。実力者が集まって集団で争うためだよ」

 唖然としてしまう。鬼とは孤高の存在だと、どこかで信じていた。だからこそ、平然と公言するツルミに耳を疑ってしまう。


「何も、1人で戦わなければいけない決まりなんてない。だからこそ、ここで時間を見定めているだけだよ」

「集団でって、卑怯だな」


 話を聞いていると、どこか癇に障ってしまい、声を荒げた。


「聡明だと褒めてほしいものだ。これまでにやり遂げたことのないことをやろうとしているのだから」


 まったく非を認めようとしないツルミを睨むけれど、まったく通用せず、顔色を崩さない。

 ダメだ。こいつにとって、鬼のプライドなんかは関係ないのかもしれない。自分の目的のためなら、卑劣なことも厭わないみたいだ。

 そこだけは鬼の意識は強いってことか。


「だったら、人を巻き込むな。なんで鬼は人を巻き込んで、ことを荒げようとするんだっ」

「それはお互い様さ」


 お互い様……。 

 以前にもネグロがそんなことを言っていた気がする。やはり取りつく島がない。

 苛立ちが戸惑いを勝っていき、体が震えそうになる。


「それで、アカネも拉致したのか」

「アカネ? あの高飛車な女か。自分の立場も弁えない勘違い女」


 わざとらしく何度も頷く。そして、群衆の一角を眺め、顎をしゃくった。すると、群衆の一角が左右に割れて開くと、1人の大男が輪に入ってくる。

 そこには後ろ手に縛られたアカネを連れて。

身動きが取れないアカネは苦悶の表情を浮かべている。

 アカネを拘束している男は以前、バンジョウの屋敷でツルミの隣で立っていたタカセであった。

 タカセは無表情で拘束し、感情が読めないからこそ、余計に不気味に見えてしまう。


「こいつも何かの役に立つと思ってな。利用させてもらうのに、捕まえておいた」

「利用? どうするつもりだ?」

「少なくても、お前は自由に動けないだろ」


 痛いところを突かれ、唇を噛むしかない。


「じゃあ、どうして街に数人の人がいる。鬼の住処にしたいのなら、人は邪魔じゃないのか」

「ああ、それは街の体裁や評判を保つためさ。鬼だけの街なら、いずれどこかでボロがでる。それこそ、集団で討伐に来られても面倒だしな。だから数割の人間を残しているのさ。そこで、俺らの正体をばらさないよう従わせてな」

「それでネグロを派遣させ、鬼を集めているのか?」

「ネグロ? ああ、あいつはもう違う」


 それまで高説を述べ、自信ありげにしていたけれど、ネグロの名を聞いて、頬を歪ませた。


「あいつは鬼の品格を汚した。人から武器を奪うまではよかったが、それに溺れたか、収集に駆られ、自信の向上より武器を集めることに必死になるのだから」


 収集? 背負っていた武器、ランスの剣のことか。


「ま、奴程度の鬼。この街に必要ない小物だったからな。こちらとしては厄介払いで追放したのさ。まさか、お前と繋がるとは、奴も悪運があるというか。因果なものだな。で、突っかかるってことは、奴を殺したんだよな」


 挑発気味に問うツルミに、返す言葉は見つからない。

 小物…… よく言うよ。あれだけの力で。

 悔しさを噛み殺しながら体勢を正し、剣を構え直す。


「そうか、それでも戦うか」

「アカネには手を出すな」


 僕の要求にツルミは顎に手を当て思案すると、


「まあいいだろ」


 と、タカセに向かって手を上げた。すると、アカネを解放した。背中を押されたアカネはよろめきながらも、僕のそばに駆け寄り、膝から崩れた。


「さて。荷物を持った状態でどう戦うか楽しませてもらおう。タカセッ」


 と、急にタカセに叫ぶと、タカセはおもむろに何かを投げつけた。影が放物線を描いてツルミの腕に何かが収まる。

 掴んだ反動で腕を回しながら、最後に僕に向かって腕を伸ばす。手には剣が握られている。


「さて、遊びを続けようか」


 満足げに宣言するツルミ。


「なんだよ。鬼のくせに武器なんか使うのかよ」


 苦し紛れの強がり。少しでも動揺を誘って隙を作りたかった。以前のネグロみたいに。


「ふん。別に俺は爪にこだわることはないさ。武器がある方が有利に戦えるのも事実。まあ、無能な人間の知恵を使うのは癇に障るが、使えるものは使うさ。ネグロみたく収集するわけでもないがな」


 剣先を揺らすツルミに息を呑む。どうもネグロみたく動揺しないか。

 さて…… どう戦うか。

 ツルミだけじゃない。気づけば、辺りにいた住民のほとんどがこちらを睨み、僕を標的に定めている。すでに爪を伸ばしている者もいた。

 ほとんど全員じゃないか。クソッ。


 街全体が……。

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