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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第5章  9  ――  鬼の街へようこそ  ――

 第六十六話目。

 戦う。

                    

            9



 昨日、戦ったときはやはり遊ばれていたのか。

 暗闇のなかでの戦いとは桁外れの猛攻が続いていた。

 鋭く、それでいて重たい斬撃が雨のごとく降り注ぎ、剣でいなすことで精一杯だ。

 しかも、人の輪の小さな範囲で機敏に動ける様は、それだけの実力を兼ね合わせている。

 ネグロとは比較にならない。


「どうした? 息巻いていたわりには、防戦一方ではないか?」


 反論する余裕もなく、斬撃の軌道を追うだけで疲労が積もっていく。

 強引にツルミの爪を大きく振り払い、距離を取って後ろに下がった。


「そうやって、力づくで人を黙らせているのか?」


 少しでも気持ちを落ち着かせたい。


「そうだな。人間を黙らせるには、力で屈服させるのが手っ取り早いからな」

「それにランスを巻き込んだのかっ」


 指を弄ぶツルミの表情はより憎らしげに吊り上がる。


「まあな。そうだ。あいつらみたく、下手に腕に自信のある奴を、普通の人間の前で服従させれば、それだけ恐怖は浸透する。そのうち、1人や2人を殺せばより深く刻ませることができるからな」


 とツルミは自分の胸に爪を当てて嘲笑った。


「その点、ランスは楽しかったぞ。傀儡に堕ちてくれたのは」

「――待て。そういえば、ランスはネグロって鬼に負けたはずだ。それなのになんでお前は」

「ネグロか。そうだ。奴も元はこの街にいた。そして奴に向かった戦士が何人も返り討ちになったんだよ」


 ふざ、ふざけるなっ。

 あの弱々しく見えたランスの姿が脳裏に浮かび、苛立ちに奥歯を噛んでしまう。


「ふざけんなっ。そんなことでラン――」


 瞬間、体が勝手に動き、剣先をツルミから放し、途方のない方角に刃を向けてしまう。

 恐怖と困惑に満ちた住民らに向けて。

 背中に禍々しい殺気を受けてしまった。人が放つものとは比べものにならい、異様な殺気を。


 鬼の殺気を。


 どういうことだ。なんで?

 意識だけが揺らいでいく。

 視線を動かすわけにはいかない。ツルミから目を逸らしてしまえば、完全に命を奪われる。

 でも右手がツルミを捉えることをなぜか拒んでいる。視線だけが激しく泳いでいる。


「……さすがだな」


 意味がわからず身を屈めていると、ツルミは驚きながらも感心した。


 ……さすが?


 困惑しかない僕を嘲笑するツルミ。嬉しそうに腕を組むと指を動かしている。


「どうやら、お前も弱くはないみたいだな」

「まさか、お前意外に鬼がいるのか?」


 自分の直感を信じて呟いた。いや、むしろ強がっていた。

 ツルミは何も言わずに口角を上げる。肯定とも否定とも取れる表情で。

 誰だ? ほかに鬼がいるなんて、どういう意味だ。

 油断はできない。

 けれど辺りを見渡してしまう。ツルミだけでも厄介。そこに別の鬼が加われば、不利なのは明白。

 でも、未確認の鬼を意識しながら戦うのはもっと厄介。せめて、誰かを見定めなければ……。

 可能性があるとすれば、バンジョウのそばでツルミと一緒にいたタカセって奴。

 だけど、この群衆のなかに奴の姿はない…… 違うのか……。


「………?」


 なんだ?

 さっきまで住民らは鬼の存在に怯えていたよな。見えない奴に戸惑っていたよな。

 それまで冷めていた眼差しがいつしか好奇の眼差しに変わっている。

 どこか僕を見ている。だが、どこか違和感が…… まるで、追い詰められた僕を楽しんでいるみたいに映ってしまう。


「――っ?」


 ちょっと待て。1人、2人…… なんだ?

 次第に眉間が険しくなる。住民らの異質さに気づいた。

 手袋をしている人が多い。

 花屋とか、仕事で手袋をしているのは理解できる。だが、それだけじゃない。普通の人らまでが手袋をしている者が多い。

 陽に焼けるのを避けるため? いや、それにしては帽子などで顔を隠している者はいない。

 別に肌を守るために、手袋をしているわけではなさそうに見える。肩から腕を出している者もいる。

 手だけを守っている。いや、守ってる…… 何から。太陽から。そんなの……。


「……人から」


 誰にも聞こえないほどの小声でこぼし、誰とも言わずに住民を睨んだ。憎らしげに眉を歪めると、ツルミが鼻で笑った。


「気づいたか?」


 無言のまま睨むと、ツルミは大げさに拍手をする。憎らしさがさらに増し、奥歯を噛むしかできない。


「ご名答」


 ったく、冗談はよしてくれっての。


「鬼の街へようこそ」


 嘘、だろ。

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