表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/150

 第5章  1  ――  広間  ――

 第五十八話目。

 屋敷跡。


           第5章


            1



 雲一つない夜空に、三日月が淡い光を街の家を照らしているなか、足はあの屋敷跡に向かっていた。

 無数の剣を眺めていると、胸に込み上げるものがあった。

 恐怖からではない。それでも、足元から込み上げる震えを無下にはできない。

 昼間は奇妙な抑止力が働き、引き下がったけれど、今はそうではない。屋敷のなかに侵入していた。

 表の惨状から室内も荒れていると想像していたけれど、やはり屋敷内も荒れていた。

 壁は剥がれ、鉄骨が剥き出しになり、天井が崩れて散々で、前の住民の荷物だろうかが散乱し、無残な光景が広がっている。

 窓ガラスも割れて、月明かりが直接通路の半分まで照らしていた。

 そのせいか、幾分屋敷内は明るく、視界に困ることもなく足を進めることはできた。

 静寂した通路に甲高い音を立てていると、不意に足が止まる。眼前に大きな金属で装飾された扉が出迎えた。

 装飾品が錆び、木の部分も所々朽ちて捲れる扉をゆっくり開いた。

 ギリリと軋んだ音を響かせ開く扉。その内部に踏み込むと、またしても足は止まる。

 扉の奥は広間となり、足元から奥に赤い絨毯が伸び、奥の壁際にある一脚の椅子が存在感を示している。

 部屋の片面がガラス張りとなり、月明かりが鮮明に射し込んでおり、より椅子の存在を際立たせていた。

 引き込まれるように進むと、椅子のそばに辿り着く。

 歩が止まるのと同時に、目を剥いてしまう。


「なんだ、これ。血?」


 椅子は座面から背凭れにかけて、赤い布で精製され、背凭れの淵はこちらも綺麗な装飾品で飾られている。

 あたかもこの地の権力者が座っていたのを彷彿させるけれど、椅子は異質さを放っている。

 座面の生地は裂け、綿が剥き出しになっており、背凭れから黒い染みがみっしりとついていた。

 それが血の痕であり、時間の経過により黒くなっているのは一目瞭然になっていた。

 ランスの話では、ここで以前、鬼との争いが起きていたと言っていた。その戦闘が激しかった場所がここだったのだろうと察した。

 ふと広間を見渡した。

 よく観察すれば、窓のガラスの一部が割れ、床に欠片が散らかっており、壁も至るところが崩れている。

 また、あちらこちらに黒い染みが飛び散っている。おそらくそれらすべて血が飛んだ痕なのだろう。

 とんでもない惨劇が繰り広げられたのが容易に想像できた。


「なんなんだよ。なんでこんな戦いが起きなきゃいけないんだ……」


 誰にでもない文句が留まらず、怒りから拳を握り締めていた。

 怒りを何かにぶつけたいのだけれど、やり場のない怒りが堪えられず、椅子の背凭れに手を触れてしまう。


「――っ」


 冷たい背凭れに触れたとき、意識が飛んでしまった。

 急激に目眩が起きてしまい、倒れそうなのを必死で堪えた。一瞬の出来事であったけれど、心臓が激しく脈打っている。

 意味のわからない動揺を、胸に手を当てて無理矢理鎮めた。


 なんだったんだ、今の?


 突然の出来事に困惑し、額を押さえてしまう。

 しばらく黙ったあと、ゆっくりと剣に手を触れ、足に力を入れた。


「――なんの用だ?」


 誰かが後をつけているのは気づいていた。微かな殺気が漏れていたので。

 それでも気配はほとんどない。かなりの手練れだな。

 意識を集中させて振り向いた。警戒は怠らず、剣に手を添えたままで。

 広間の入口からゆっくりと人が入ってくる。影が月明かりに照らされていき、次第に輪郭を帯びていく。


「……ランス?」


 血。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ