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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第4章  12  ――  忘れられた石碑  ――

 第五十六話目。

 目を背けたい。

                    

            12



 嫌なものには蓋をする。

 まったく便利な言葉だけど、私にしてみれば、そんなの身勝手な言葉でしか聞こえなかった。

 街に入ったときは活気に溢れていて羨ましかったけれど、あの屋敷跡を見てしまうと、すべての憧れが崩れ去り、幻滅しかなかった。


 ユラと別れ、私は1人になっていた。


 彼にもランスって人に剣を返すって目的があったけれど、そんなことは知らない。

 受け取りたくないのなら、それでいいじゃん。

 それよりもレガートに早く向かう方が好都合なんだし。

 でも……。

 

「はい、ありがとね」


 花屋のおばちゃんが選んでくれた花束を受け取った。

 旅の準備はもちろんだけど、その前にどうしても花を買いたかった。


「――そういえば」


 花屋のおばちゃんを見ていると、ふと気になることがあり、


「この街の人って、なんか手袋している人、多くない?」


 目の前のおばちゃんもそうだけど、街を歩いている人は、どうも手袋をしている人が多く感じられた。

 身なりを気にしているのか、どこか不思議であった。もちろん、仕事で汚れないようにしている意味も含んでいるだろうけれど。


「ああ、それは陽に焼けるのを気にしているんだよ。この地方の人らは、肌が弱い人が多いからね」

「ふ~ん。そうなんだ」


 気さくに答えてくれるおばちゃん。なんだ、私が気にしているだけか。

 うん。いい香り。

 手にした花の甘い香りに嫌なことを忘れ、頬が緩んだ。



 花束を地面に置くと、合掌した。

 しばらくして目蓋を開くと、小さな石が建てられた石碑の前に、先ほどの花を手向けた。

 ずっと、気がかりであった。

 丘の上の屋敷の無数の剣が、野晒しにされていたのもそうだけど、ここもそうである。


 ――ついて来い。――


 屋敷跡を一度去ったライド。

 しばらくその場で佇んでいた私らの前にランスが唐突に戻ると力なく呟き、私たちを連れて来たのがここだった。

 一向に屋敷跡を去らなかった私らに呆れたのか、耐えられなくなったのかはわからないけれど。



 連れられて来たのは、丘を降り、街の近くに隣接した林のなかにある、開けた場所。

 木々が開け、空から陽の光を浴びた草が悠然とする広場。その中心に小さな石碑が建てられていた。

 人の腰ぐらいの高さの石碑は粗雑なもので、いびつな石が建てえられている。しかも、どこか手入れをされていないのか、コケやホコリがへばりつき、忘れ去られているみたい。

 どこか屋敷跡の無数の剣を彷彿させた。


「ここは?」

「墓場だよ」


 素っ気なく答えるライド。


「だから言っただろ。住民は嫌なことから目を逸らすって。これもその1つだ。誰もが死んだ者を弔うことをしないんだよ」

「何よ、それ。そんなの寂しいじゃん」

「だから、これが現実なんだよ」



 小さな石碑を眺め呟くライドは、これまでに見せていた曇った表情は消え、寂しげに映った。


 忘れられた石碑。


 そんな寂しげな場所がどうしても受け入れられなかった。邪険にはしたくなく、花束を持って来た。

 もう1つ買って屋敷跡にも持って行こうかな。


「珍しいな。こんな場所に人がいるなんて」


 合掌していた手を下げると、不意に誰かに話しかけられた。振り向くと、1人の男の老人が近づいていた。

 ゆっくりとした足取りで近づいた老人。私のそばで立つと、石碑に向かって合掌する。頭皮が薄くなった老人。穏やかな顔をしているけれど、目が悪いのか細めている。

 そういえば、この人も手袋をしている。


「ここって忘れられているんじゃないの?」


 素朴なことを聞くと、老人は頷き、


「そうだな。今となっては訪れる者もいない。だからこそ、あんたがいることに正直驚いた」

「うん。ちょっとこの光景を見て寂しくなったから」


 率直な想いを言うと、老人は目を丸くする。


「何? なんか変なことした?」


 意外な反応に突っかかってしまう。すると老人は苦笑して手で制した。


「気を悪くしたのならすまない。だが、あんたと一緒にいた男を見ていると、そんな気がしたんだ」

「ユラを? そうかな」

「武器を持っている者はみな、乱暴な奴が多かった。だからそう思ったんだよ」

「みんながみんな、そうじゃないわよ」


 どうも偏見が強い言い方に、口調は強くなった。


「そっか。それは悪かった。どうも戦士という者は、鬼を求めているみたいだからな」

「鬼を求めるなんて……」

 


 蓋をしたいもの。

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