第4章 9 ―― 鬼の雰囲気 ――
第五十三話目。
なんか、気になる。
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「もう少しって、何か気になることがあるの?」
そこで辺りを見渡した。誰もこちらを気にしている素振りはない。
「うん。なんかさ、ずっと鬼の視線を感じてしまうんだよね」
頬杖を突き、小声になってしまう。周りの誰かに聞かれたくはなかった。
「じゃあ、街に鬼がいるの? それとも、前に感じた修羅に戦いが気になってる?」
「そんなにはっきりとは言えないけれど、なんか変な気配を感じるんだ」
目に見えない奇妙な影みたいに、どうも睨まれているみたいで、気持ちが悪い。
「気になるか。それなら、私も1つあるかな」
急に真剣にコーヒーを飲み、一拍置くアカネ。そして窓の外を眺めた。
「なんかさ、あそこが気になったんだよね」
と、またフォークを手にすると、フォークで1つの方向を指した。フォークは街の奥にあった丘の屋敷を捉えている。
「あれか。確かに僕も気になってる。なんなんだろうな、あれ」
街に着いてから気になっていた。どこか街から切り離されているみたいで。
「ねえ、あの屋敷ってなんなの? なんか雰囲気が違うみたいなんだけどさ」
不思議がっていると、唐突に隣の席で朝食を取っていた男に気さくに聞いていた。
またこいつは。
僕らはどこか警戒されていそうなのに、なんでそんなに簡単に話しかけれるのか。また怪しまれるぞ。
どこか胸を締めつけられていると、
「ああ、あれか。あれは以前、この街を統治していた者の屋敷跡だよ」
心配は杞憂に終わったのか、思いのほか、男は気さくに答えてくれ、笑ってくれた。
「でも、あまり近づかない方がいいよ。今は誰もが住んでないし、ただの廃墟になってしまっているからね」
「誰も住んでないんだ。それなのに残ってるの?」
「う~ん。辛いところだね。それはやはり歴史の象徴として残しているんだよ。それに怖いからね。鬼の雰囲気が残っているから」
「歴史ねえ。ふ~ん。ありがと」
アカネが会釈すると、男は「そうか」と笑って自分らの会話に戻った。それを見届けると、安堵した。また問題を起こして警備の者が来れば、とずっと肝を冷やしていたから。
でも、なんだろうな、この気持ち……。
「ねえユラ。 ……ユラ? ユラッ」
どうもすっきりできず、じっと遠くの屋敷を眺めていると、つい意識が飛んでしまっていた。
ややあって瞬きをすると、眼前に頬を紅潮させたアカネが睨んでくる。
どうも怒らせたか?
ヤバい、とうつむくと、アカネはわざとらしく溜め息をこぼし、少し身を屈め、
「……行ってみる?」
小声で提案するアカネ。どうやら聞かれてはまずいのは理解しているようだ。
「……そうだな」
行くべき、なのかな。




