第4章 8 ―― すれ違い ――
第五十二話目。
ようやく、人捜し。
8
バンジョウの計らいなのか、アカネの粘り勝ちなのか、どちらにせよ、街に滞在は叶い、無事に外を歩けるようになった。
腰には剣を下げている。
武器も無事に返却された。もちろん、バンジョウには強く忠告は受けたけれど。
晴れて自由の身となり、本来の目的であるランスを捜してはいたのだけれど、上手くはいかないものだ。
どうもすれ違いなのか、避けられているのか、ランスを見つけることができない。
一日かけて街を彷徨っていると、滅入ってしまう気持ちをごまかしたくて、一か所に視線は止まってしまう。
街の奥の小高い丘。
そこにどうも屋敷らしき建物が見えてしまい、どうも気になっていた。
夕陽が射し込む通路でふと足を止め、白い壁を陽によって紅く染まっていく屋敷をじっと眺めた。
なんか、気になるな。行ってみるか、明日にでも。
どこか不穏な雰囲気がありそうで、逡巡していると、ふと視線が彷徨った。
辺りを見渡すのだけど、なんの変哲のない街の光景が流れているだけ。どこにも異変はなく、手持ち草になった手で顎を擦ってしまう。
なんか背中が痒いな……。
「ケガ人が何、ふらついてるのよ」
翌日の朝。宿屋で朝食を食べていたとき、向かいでフォークを口にくわえながらアカネが拗ねている。
「ちょっとは重傷者のふりもしないと、街にいられなくなるわよ」
アカネの忠告に胸が絞められ、コーヒーを飲んでごまかした。まさにその通りだ。
「それで、ランスって人に会えたの?」
アカネの問いに、グラスを持つ手に力が入った。
「いや、無理だった」
上手くいかなかったことにうなだれると、アカネは「そう」と、ウインナーを口に運んだ。
「あ、それと」
今後どうするか考えていると、アカネはフォークの先で急に指した。
「なんで、私も連れて行かなかったのよっ」
急に声を荒げ、唇を尖らす姿に、溜め息をこぼした。
「ちゃんと声はかけたさ。けど、寝てんのか、部屋から出なかったのはお前だろ」
実はランスを捜す際、アカネにも声をかけていた。
彼女の強引さは人を捜すのには好都合だと思い。
だが、部屋をいくらノックしても出てはくれず、1人で散策していた。
「だって仕方がないじゃん。一晩も牢屋に入れられていたんだから。疲れたんだもん。お肌だってガサガサだし」
と口にフォークをくわえ、両手を頬に当てておどけるアカネ。呆れるしかなかった。
「でも、どうするの。ランスって人が見つからなければ、それだけ時間がかかってしまうじゃない」
「だよな。どうもこの街に僕らは邪険にされていそうだから」
ふとコーヒーを眺めながら、言葉に迷ってしまう。
「じゃあ、レガートに行くって言ってもさ、その約束した鬼に出会ったらどうするの?」
それまでふざけていたアカネであったけれど、フォークを置くと、急に真剣な表情になっていた。
ただ、僕は力なくかぶりを振る。
「それはないさ」
「どうして?」
断言すると、不思議そうに瞬きをされた。
「ラピスは…… 死んでるから」
「――えっ?」
急に訪れた沈黙。それはとてつもなく重く肩にのしかかった。
「……死んでるって、そっか。それでその子に」
「そう。その娘に渡したい物があるからさ」
「じゃあ、なんですぐに行かなかったの? レガートはジュストからだと逆方向じゃない?」
アカネの指摘にまた苦笑してしまいそうになる。やはりそうなるよな。
「前にも同じことを言われたよ」
以前に会った女の鬼に笑われたことを思い出してしまう。
「じゃあ、ランスとちゃんと話ができなかったら、どうするの? もう街を出る?」
逡巡してしまう。正直悩んでしまう。
「いや、やっぱり、もう少しここに留まろうと思う」
痛いところを突かれるな。




