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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第4章  7  ――  保障  ――

 第五十一話目。

 客人ってわけじゃない。

                    

            7



 緊張が走るなか、長のバンジョウは僕をじっと見据える。

 なぜだろうか。まっすぐな眼差しで力を感じるけれど、曇っているみたいだ。

 バンジョウは杖を持ちながら、もう一度頭を下げた。


「本当に申しわけない。この街は怯えているのです」

「怯えている?」


 はい、と頭を下げるバンジョウ。


「実はこの街は数年前、鬼に襲われたことがありました。街の大半が焼け野原になり、多くの人が亡くなったのです」

「街が鬼に?」

「その際に負った傷は計り知れない。そしてその傷は今も癒えなくてね。人はみな、怯えているんだ」

「怯えるって、鬼に?」


 そこで一度口を噤むバンジョウ。先を促すアカネにうつむき、しばらく逡巡してから顔を上げる。


「街に戦う意志はない。それを鬼に伝えるため、武器を持たないことを選んでいるんです。だが、あなた方のような旅の方には武器を携帯している者もいる。そうした者に鬼に誤解を生ませないため、拘束させていただいた」

「バカバカしい。そんなの護身で持っている者もいるでしょうが。そうした連中も言語道断で捕まえるって言うのっ」

「一時的なだけです。誤解が解ければ、解放させていただいております」

「そんなの、鬼に伝わるかどうかはわからないじゃない」


 アカネは反論し、テーブルを叩く。確かにそうだ。自分たちが無害だという保証はどこにもない。


「念のためです。少しでも問題ごとをなくすための」


 どうも納得できず、話を聞きながらも鼻を擦ってしまう。


「答えになっていないっ」


 と、釈然としないアカネはドンっとソファーに背を預けた。


「あなた方が僕らに危害がない、と確認すれば、襲われないという保証になるとでも?」


 僕は少し深く追及してみた。

 ランスも言っていた。街は〝二度と鬼に襲われない〟と。

 そこでバンジョウは苦笑し、


「申しわけない。確かにあなたの言う通り。保証はありません」

「――長っ」


 自らの非を認めると、ツルミが身を屈め、注意を促す。バンジョウは手でいなし、


「とはいえ、鬼も実際聡明な者。武器を持っている者が長らく滞在する者ではない、と知れば、手を出さないという判断をしてくれるかもしれない。我々はそれに期待も含め、そうした決まりごとをしているんです」


 自分らの考えを熱弁するバンジョウ。アカネは依然、横暴な態度のままで、フンッと鼻を鳴らす。


「どうか、我々のことも免じて、1つお頼みしたいことがあるのですが」


 そこで、背を伸ばして改まるバンジョウ。

 どうもこの先に言われることは想像できてしまう。こちらも気持ちが引き締まった。


「できることなら、早く街を出て行ってくれないでしょうか」


 やっぱり、と想像通りの懇願に、苦笑いしてしまいそうなのを堪えた。ことを荒げたくはない。街の主張は理解できるけれど、即答はできない。


「悪いけれど、それはできないね」


 逡巡する僕の横で、腕を組んでいたアカネが即答する。意外な反応に僕の方が驚いてしまう。


「なぜです? その方がそちらも鬼に襲われる心配もないと思うのですが?」


 訝しげに首を傾げるバンジョウ。それでもアカネは動じていない。すると、不意に親指で僕の顔を指した。


「この子がさ、数日前に鬼に襲われたの。それでまだ傷が完治してなくて。それで数日は治療のために滞在したいんだけど」


 確かにネグロとの戦いで、傷はまだ治っていないが、今は動けないほどの重症でもない。普通に動くのに支障はないのだけれど、どうも逆らえない。

 ね? と声をかけるアカネは笑っているけれど、眼差しは「従え」と恫喝しており、口を噤んでおいた。


「鬼に戦いを挑むなぞ、どれだけ無謀なのですか」

「まったくです。軽率すぎるにもほどがありますな」


 それまで沈黙を貫いていた後ろの2人が嘆いた。


「別に挑んでなんかないわ。巻き込まれたのよ。手を出してきたのは鬼よ。どうもこちらの執事の方々はケガ人に対して冷たいのね。それとも、外の人を邪険にするのは、街の方針なのかしら?」


 怪訝にする2人に最大の嫌味をぶつけるアカネ。バンジョウは気まずそうにうつむいている。


「では、本当に鬼を倒すためにここに来たわけではないと?」

「それは違う。僕らはただ、知り合いがここにいると知って来ただけだ」

「それはライドのことでしょうか?」


 ライド…… あいつは本当にランスではないのか。

 聞き慣れない名前に違和感を拭えない。


「ランス…… じゃないのか?」


 思わず名前を発してしまった。別人の名を告げられると、どうしても我慢できずにいた。


「ランスという戦士はいましたが、彼は亡くなりました」


 まただ。また奇妙なことを言って話を避けられてしまう。

 あまり追及はできない雰囲気が漂うなか、バンジョウが咳払いをし、場を一変させた。


「我々は自分たちを守る手段として、武器を持たないことを選んだ。学習したんですよ。そうすれば鬼は襲わないと」

「だから、私たちは早く出て行けと?」


 それでも食い下がらないアカネにバンジョウは口を噤むと、ややあって後ろの2人に振り向き、意見を求める。

 ツルミとタカセは顔を合わせたあと、身を屈め、バンジョウの顔のそばでボソボソと口添えした。バンジョウは小さく何度か頷き、


「わかりました。あなた方の滞在を許可しましょう」

「いいのか?」


 急に寛容になるバンジョウに拍子抜けしてしまう。


「ただし、問題だけは起こさないよう、十分にお気をつけください」


 バンジョウの忠告はより重く聞こえた。


 また帰れ、か。

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