第3章 12 ―― ジュスト ――
第四十三話目。
新たな目的地。
12
「ジュスト?」
翌日。
ボルガが休む病院の病室で、次に向かうべき場所を告げると、困惑した様子のアカネが声を上擦らせる。
ボルガも安静にしなければいけないが目覚めており、ベッドに横になりながらも目を剥いた。
ベッド脇にある椅子に座っていたアカネは、不満げに唇を尖らせている。けれど、気にせず頷いた。
2人は何も告げずに出るつもりでいたけれど、やはり無下にもできず、挨拶代わりに報告しておいた。
「でも、それがユラの目的地だったっけ?」
アカネの疑問にかぶりを振る。
もちろん、最終的な目的地はレガート。それでも先に確認したくなった。
「ランス。あいつがいるのか確認したいんだ」
「……ランス? そういえば鬼との戦いのとき、そんなことを言っていた気が。知り合いなの?」
「ああ。昔のね」
「確か、その人の武器を鬼が持っていたんだよね。でも……」
逡巡するアカネ。ネグロとの会話から察して口を噤んでしまう。
「それでもちゃんと確かめたいんだ。あいつがそんなこと。あいつは強いはずなのに」
微かな望みに賭けてみたかった。無謀だと指摘されても譲れない。例え、往生際が悪いと言われても。
「ですが、なぜジュストに?」
じっと話を聞いていたボルガが口を開いた。まだ顔色は悪く、声も弱々しくはあったけれど、僕を捉える眼差しは強い。
「……それは」
昨日の夜、ロアールと遭遇し、そこでランスについて話を聞いたことを伝えた。
それには2人も面喰い、互いに顔を見合わせる。
「大丈夫だったの?」
「うん。かなり憎まれてはいたけど、殺されることはなかった」
今考えると、殺されなかったのは不思議である。
「ジュストって、結構大きな街よね」
正直、土地勘はなく、ジュストに対して呟き、髪を撫でるアカネに「そうなのか」と頷いた。
ややあったあと、アカネは手を止め、
「ねえ、私もその旅に一緒に行っていい?」
突如、提案したアカネに、今度は僕とボルガが面食らってしまう。対してアカネは目を輝かせる。
アカネとはまだ付き合いが浅い。
それでも多少は彼女のことはわかった。これでは梃でも動きそうにないほど、満面の笑みを献上されてしまった。
呆れて頭を抱えてしまう。
「君らとは目的が違うと思うけど?」
こちらも遊びではないので、真剣に問うと、アカネから笑顔が消える。
「気にしないで。私も鬼に会いたいってのは目的の1つだから」
「それって、鬼を倒すため?」
低い口調で問うと、手を止めたアカネは瞼を閉じ、
「鬼には死んでほしい」
多少、責めると、アカネは冷ややかな口調で見据えて答えた。
「でも、それじゃ矛盾してるけど? 前にも言ったろ。僕は鬼を倒すために旅をしているわけじゃない」
「それでもいい。私はあんたについていくから」
「だからって、あのねえ……」
眼差しから揺らがない意志が伝わり、呆れるしかなかった。
向かうしかない。




