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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき
39/59

 第3章  8  ――  ボロボロ  ――

 第三十九話目。

 ふざけるなよ。

                    

            8



 ネグロの咆哮はしばらく続いた。

 草原を揺らし、空気を震わせる叫びにアカネが耳を塞ぎ、眉間を歪める。

 鼓膜を破りそうな奇声であっても、僕は気にせずネグロを睨む。

 ネグロは口を大きく開き、体をのけ反らして悶えている。

 まだ何も聞いていない。聞き出してやる。


「ふざけるなっ」


 留まることのない血を右手で押さえながら、ネグロは怒鳴りつける。

 うるさい。そんなことは関係ない。

 迷わず剣を振り下げる。

 ふざけるな。何も話さないくせに、怒鳴るなっ。

 感情の赴くままに動き、刃を振り下ろしたとき、刃は地面にめり込む。


 そこにネグロはいない。


 視線を上げると、少し離れた先に左肩を押さえ、身構えるネグロの姿。遺恨に満ちた禍々しい眼差しをぶつけて。

 口元が動いたが、何を言っているのかは聞こえない。それでもそんなことは関係ない。

 すぐさま飛びかかろうとしたとき、なぜか一歩遅れてしまう。

 迷いから遅れたとき、忽然とネグロの姿が消えた。

 風が吹いた微かな合間に、ネグロは消えた。

 そんな消えた? 逃げた? 逃がす――


「――っ」


 すぐさま追いかけようとしたとき、急激に全身から力が抜けてしまった。


 なんだ、あれ?


 動くことができず、その場にしゃがみ込んでしまう。

 なぜだか体が重たい。

 息が上がって苦しい。

 確かに激しい戦いであったけれど、想像以上に疲労が一気に襲ってきた。

 動けない。

 それどころか、急にむせてしまい、咳が止まらない。


「ちょ、ユラッ。大丈夫なのっ」


 そこでアカネがそばに駆け寄ってきた。体を支えてもらう。

 どうやら、威圧感から解放されたらしい。


「なんなの、あんた。さっきの何? なんか黒い靄みたいなものがあったけれど、あの力は何? 体は大丈夫なの?」


 矢継ぎ早に聞いてくるアカネに、すべてに答える余裕なんてない。手で制するしかなかった。


「ボルガは……」


 すべての問いに答えはせず、倒れたままのボルガを眺めた。すると、焦りながらアカネが身を起こして、すぐさまそちらに駆け寄った。

 体が重い。けれど、そんなことを言ってられない。

 ボルガのそばに続いて寄ると、ボルガは草の上で倒れている。

 胸からの血が服に染み広がっている。目を閉じ、顔にも血の気がなくなっている。

 アカネも追い詰められ、青ざめた表情で懸命に治療を初めている。正直なところ諦めていた。それでも首筋に手を触れる。

 肌は冷たい。でも――


「生きてるっ。まだ息は微かにある」


 もう少し戦いが続いていたのなら、ボルガは助からなかったかもしれない。

 それでも微かにまだ息はあり、急いでカーポに戻ることにした。

 マルチャに進む選択もあったけれど、ネグロの話もある。確実に治療をするべき、とカーポを選んだ。

 危険ではあるとはいえ、助かる、と聞いた途端、またしても全身から力が抜けてしまう。


「あんただってボロボロじゃん」


 意識が途切れてしまいそうなとき、アカネの叫喚が鼓膜を裂きそうなほど、全身を突き抜けた。


 そんなに僕は激しい戦いをしていたのか?

 どれだけの戦いだったんだ?

 どれだけの傷を僕は負ったんだ?

 じゃあ、どうやってネグロを退けた?


 アカネの叫喚に眉をひそめた瞬間、いくつもの疑念に襲われてしまい、意識が遠のいていく。

 あれ? 限界?


 あれ?

 なんで?

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