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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二章  6  ――  行商の話  ――

 第二十五話目。

 早く休みたい。

                    

            6



「ねえ、いいじゃん。1人で戦うよりも、複数で戦う方が優位になるんだからさ」


 陽はすでに沈みかけている。このまま町を出て旅を進めると夜が更けてしまうだろう。夜を彷徨うよりも、日をまたいだ方が無難だと宿を探していたのだけど、それは叶いそうにない。

 町を彷徨っていると、ずっと後ろからアカネが口を尖らせ、腕を組みながら声を張り上げて付いてくる。

 どこか勧誘よりも責めているような口調なのは気のせいなのか? というか、責められる言動をしたつもりはないんだけど。

 次第に町を行き交う住民らが好奇の目で見ていた。

 これでは僕がアカネを無下に扱っているみたいで憎らしい。

 足を止め、わざとらしく溜め息をこぼすと、振り返った。

 こちらが反応すると、期待からか頬が緩み、目を丸くするアカネ。だが、僕が鋭く睨むと、そうじゃない、と察したかすぐに下唇を噛む。

 ボルガはいない。彼は諦めたのか、こちらの思いを汲んでくれたのかは定かではないけれど。

 しかし、アカネはしつこそうだ。


「ねえ、気持ちは変わった?」


 望みがないんだと認めてほしいのだが、勧誘は終わらない。


「そんなにお前は鬼を殺したいのか?」


 嫌われるのを恐れず、蔑んだ眼差しをぶつけた。当然の反応か、アカネは黙って憎らしく睨んでくる。

 そこで僕は首を傾げて笑ってみせた。それは予想外だったのか、アカネも呆気に取られて、瞬きを忘れていた。


「別に僕はお前たちの理想を否定してるつもりはないよ。ただ、僕は今まで結果的に鬼を倒していただけ。自分から刃は向けたくない」

「でも、人は苦しんでるんだよ」

「わかってる。それでも遺恨で鬼殺しになりたくないんだ。悪く思わないでくれ」


 頑なに拒むのもらちがあきそうになく、諭すように言うと、アカネは悔しそうに髪を掻き毟る。納得がいかないのだろう。

 でも、それまでの勢いは消沈していた。これで諦めてくれればいい。


「ごめん」

「だから止めておけっ」

「――っ?」


どう切り抜ければいいか思案していると、唐突にどこかからか年配の男の怒鳴り声が2人の間を割って通り抜けた。

 遮られた声に、アカネと顔を見合わせ、声の主を捜してしまう。すると、アカネの斜め後ろにいた男2人口論がこちらに飛んできた。


「だけど、ジュストに行くにはどうしても」

「だが、わざわざ危険を冒してまで鬼が目撃されたところを通る必要ないだろ」


 2人は親子なのか、1人は白髪交じりの年配で、1人は若い男。どこか雰囲気が似ていた。

 だが、どうしても引っかかるものがあった。「鬼」という言葉に。

 ここにも危険が及んでいるのか、と唇を噛んでいると、アカネが急に体を反転させ、男2人のそばに駆け寄った。


「ねえ、鬼って何?」


 警戒せずに、ずかずかと入り込んでいくアカネに、かぶりを振りたくなる。それでも、いいタイミングだと去ろうとすると、アカネは振り向き、手招きをした。しかもブンブンと力強く。

 逆らえない勢いに従うしかなく、そばに寄ると満足げに笑い、


「ねえ、近くに鬼がいるの?」

「あんたらは?」

「私ら? ちょっと旅をしてるんだけどね」


 当然、警戒を強められるが、アカネは気にもせず答える。


「その剣、もしかして鬼を退治とかしているのかい?」


 若い男の方が、僕とアカネとともに腰に剣を下げていたことに気づき、どこか期待を含ませた声で聞いてきた。


「ま、時と場合にだけど、何?」


 何を言っているんだ? と後ろから無言で圧力をかけていると、不意にアカネは振り向き、小さく僕を指差している。

 さっき僕がアカネらに放ったことをそのまま使い回した。

 だが、ここでは強く言い返せない。


「――で、鬼ってどういうこと?」


 強く責めないでいると、僕を無視して勝手に話を進めるアカネ。しかし、男2人はやはり警戒して躊躇している。

 当然だよな。急に話しかけたんだから。

 男2人はしばらく黙ったあと、何度か示し合わせ、


「実はそうなんだ」


 若い男が重たい口を開いた。


「俺らは行商の者なんだけど、隣町に行くにはいいけれど、その途中にちょっとした渓谷があってね。けど、その手前辺りで鬼の噂があるんだ。それで困ってるんだ」

「だから、そこを通らなければいいだけの話だろ」


 事情を話している最中、年配の白髪男が横やりを入れ、若い男を一蹴する。


「オヤジ、そうなると遠回りになる。だから鬼がでないタイミングを計って通る方が効率いいんだよっ」


 やはり親子だったらしく、再び口論を始める2人。アカネが苦笑しつつ二人を宥める。


「で、その鬼での被害って……」

「もう何人も」


 若い男はうなだれながらかぶりを振って嘆く。


「だからもう少し待て。そうすれば、新たな討伐者を雇うって話だ」


 憤慨した様子の年配の男が怒り、腕を組む。


「討伐? 何? 鬼を倒すのに誰かを雇ったの?」

「いや。雇ったってわけじゃないけど」


 息子が否定するけれど、どこか歯切れが悪い。


「鬼の噂を聞きつけ、腕に自信のある奴らが集まってきてな。だが、返り討ちになったらしくて。それで町のみんなも怖がっているんだ。それでいろいろと困ってるんだよ」


父親は被害を語る様子はより怒りを強めた。



 好き好んで退治はしてないんだけど……。

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