第二章 5 ―― 勧誘 ――
第二十四話目。
困った……。
5
まいったな、本当に。
もう頭を掻くしかなかった。レガートに行くのを躊躇した分、手遅れになってしまった。
「どうしたの? そんなにレガートが重要ってこと?」
「ん? あ、まあね」
あまり詳しく話すつもりはないけれど、深く聞いてこなかったので、ごまかしておこう。
「ねえ、あんたって1人で旅してんの?」
もうレガートに興味を失ったのか、頬杖を突くアカネ。すぐに話題を変えてしまう。
その方が僕としても好都合なんだけど。
「そうだけど、何?」
「じゃあさ、それまで鬼と遭遇したことある? 栄えてない場所だと遭遇することも増えると思うんだけど」
「まあ、そうなるね」
「その場合、どうなされていたのですか?」
「そのときの状況によるかな。ほとんどが戦いになるけれど」
素直に答えているのだけど、これには2人とも怪訝そうに顔を見合わせ、
「ほとんどって、じゃあ、あの男の鬼以外にも鬼と戦って、それで勝ってるの?」
「そう、なるね」
答えてまた肉を一口食べると、ボルガは途方に暮れた様子で椅子に凭れ、アカネは身を乗り出して僕をまじまじと観察してくる。
「やっぱ、あんたって強いのね。鬼と対等に戦えるなんて」
そこでアカネは少し首を傾げ、目を輝かせると口角を上げる。
どうも不穏な匂いがしそうだ。
「何が言いたいんだよ」
下手に回りくどいことを言われるのは苦手だ。こちらから核心に迫った。多少は棘のある口調で。
鬼を倒した、という前提が功を成したか、2人は緊張か怖さなのか、背を伸ばした。
今一度、互いに顔を見合わすと、
「ユラ殿。単刀直入に申しますが、我々の仲間になってくれませんか?」
「――断る」
「はっ?」
面倒ごとに巻き込まれるのも嫌なので、速攻で断った。だが、すぐさまアカネは機嫌を損ねたか声を上げ、眉間にシワを寄せる。
「だってそうだろ。鬼と戦っているのを見ただけで、確認もせずに襲ってくるような奴の誘いを、疑いもなく受け入れるわけにもいかないだろ」
完全にさっきの奇襲を許してなんかいない。
だからこそ、嫌味を込めて言うと、わざとらしく首を竦め、大袈裟に手の平を掲げておどけてやった。
それでも2人は真剣な面持ちを崩そうとせず、見据えてくる。それだけ真剣ってことなのか。
「我々は世界を歩き、鬼と対等に戦える人物を捜しています。そうした人物と連携を組めれば、と」
「それで鬼を倒していく、と?」
2人は黙ったまま静かに頷く。
「――で、鬼を支配するつもり?」
「そんな辛辣な。我々もそんなつもりは……」
厳しく指摘すると、体裁悪くボルガは言葉を詰まらせる。
なんだろう。意識の片隅でウリュウの顔が浮かんでイラついてしまう。
「でも、鬼を倒し続けることは、いずれ鬼との敵対関係になるし、いずれはそうなると思うよ」
「我々にそのつもりは。あくまで襲ってくる鬼に対しての対応なだけです」
「でも、いずれは〝欲〟は出るよ、きっと」
毅然として否定するボルガを冷たく突き放した。どうも信じられない。
「――ですが――」
さらに話を進めようとするボルガをよそに、唐突に僕は席を立つ。
「悪いけど、興味ないよ」
団体行動は苦手。




