第二章 4 ―― 修羅 ――
第二十三話目。
嘘…… だよね。
4
呆然として瞬きを忘れてしまった。
「どういうこと?」
ややあって、一度瞬きをしてすぐ眉をひそめた。
フウッと息を吐くと、アカネは一度椅子に深く凭れる。
「レガートは消滅したらしいのよ」
耳たぶを触りながら、天井を眺めて呟くアカネ。「だよね?」とボルガに確かめると、ボルガも一度頷き、身を乗り出した。
「我々もちゃんと確認したわけではありません。しかし、噂であっても確実に伝わっていました」
「何が原因なんだ?」
神妙な口調になるボルガ。窪んだ目の奥の光はくすんでいない。
どうも悪い事情であるのは明白であり、息が詰まりそうになる。
「鬼に襲われたらしいんです」
「――らしい?」
曖昧な返事に留まるボルガに下唇を噛んでしまう。
「何せ、町が滅んじゃったからさ。目撃者があんまり残ってないんだよね。でも滅びるほどの恐怖。怖さに拍車がかかってより恐れられるほどの話になって、広がったの。噂はいくつかあっても、行き着く結末は変わらないのよね」
さっきまでの勢いは鳴りを潜めるアカネ。それだけ冗談で済ませられない事実ってことか。
素直にすぐに受け入れるのも拒みたくなり、椅子に凭れてうなだれてしまう。
腕を組みながら、不意に頭にセピアの顔がよぎった。
レガートはない…… のか……。
「けど、町を消滅って、どれだけ鬼を怒らせたんだよ。それじゃ虐殺もいいところじゃないか」
あまりにも大きな被害を聞き、疑うわけでもないけれど、信じ切れない部分もある。疑問が生まれる。
「恐らく鬼同士の戦いに巻き込まれた、という状況でしょうな」
神妙な面持ちで口を開くボルガに、言葉は浮かばず、首筋を擦ってしまう。
「鬼同士って、そんなこと……」
いや、そういえば縄張り意識が強いとは言っていたけど。
「鬼は基本、闘争本能が強く、それには根本的な理由があるんですよ」
「――理由?」
より声を詰まらせるボルガに、ふと緊張が走る。
「〝修羅〟になるためよ」
アカネが肉を一口食べ、フォークを無造作に揺らしてみせた。
「〝修羅〟。そういえば、あんたらが僕を襲ったとき、そんなことを言っていたな。なんだよ、それ?」
突然襲われ、一方的に責められていたのを思い出し、頭痛が起こりそうだ。いや、違うな。
2人はそうした事実がなかったみたいに言っている。いや、まあ謝れはされたけれど。アカネに関してはまったく後ろめたさがない。
これって、怒っていいのか?
「修羅というのは、いわば鬼のなかの頂点に存在する鬼のことです。そいつは普通の鬼に比べ格段に強い奴のことです」
「じゃあ、それと鬼の争いと何が?」
「基本的に鬼は修羅に戦いを挑むようになっている。でも言ったように、修羅は強く、並大抵の鬼ならば、返り討ちにあってしまう。そこで鬼は自身を高めるために、鬼同士で争っています。それは自然と鬼同士の抗争に。互いの鬼が強靭であればあるほど、その戦いは激しくなります。例え、一対一の戦いであっても」
そこでボルガは一息吐き、グラスに手をやる。
話を聞き、自分なりに整理していく。次第に表情を曇らせるボルガに対し、アカネは話に飽きたのか、並んだ料理を嬉しそうに食べている。
「なら、レガートは鬼の争いに不運にも巻き込まれ、消滅してしまったと?」
「そうなりますね」
否定しないボルガに口元を手で覆った。今になって、あの女の鬼が指摘した言葉に悔やんでしまう。
逃げてるんじゃないか、と。
……参ったな。
頭をつい掻いてしまった。
マジか……。




