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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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19/146

第1章  17  ――

 第十九話目。

 戦闘?


            17



 まったく、なんでこうなったんだっ。

 疑念、いや文句をこぼす隙すらも生まれないほど、剣を機敏に動かすしかない。

 さらには足腰に意識を注がないと、勢いで倒れてしまいそうだ。


「へえ。意外とあなたやるのね」


 正面に余裕を見せる鬼の笑みが現れ、心臓が引き締まる。


 気づいたとき、女の鬼と戦闘になっていた。

 気を一瞬でも緩めれば、こいつの爪にやられる。

 鬼は両手の爪をすべて伸ばし、それを刃として襲ってくる。計10本の刃が隙間なく襲う。こちらは剣で受け流すのがやっとだ。

 爪を弾く甲高い音が何度も響き、そのたびに火花に似た光が散乱する。

 思っていた通り、こいつは瞬発力がある。気を抜けば、切り裂かれそうだ。こいつはあの男の鬼より数倍強い。

 女としての柔軟さ、そこに鬼としての剛腕。まさに蜂が像のような力を持っている。クソッ。なんだよ、ズルいな。


「どうしたの? 防戦一方じゃ、私に一撃も与えられないわよ」

「簡単に言うな、バカッ」


 光みたいな斬撃を受け、強がるのが精一杯。目も体も休まらない。

 こいつはスピードタイプ。こちらが一撃与えようと踏み込めば、必ずそこを突いてくる。だからって、わざと隙を与えても、この力量。誘いに乗らないだろう。

 だったら、奇襲しかない。けれど、僕にそんなことはできるか?


「どうしたの? 隙があるわよ」


 鬼の左手を剣でいなしたとき、右の一撃が首筋を狙う。

 ああっ、クソッ。

 反射的に屈んで逃げる。次は?

 咄嗟に左手を地面に着き、足を払った。

 力がなかったとしても、体重は普通の女と同じはず。倒せる。


「――あら?」


 鬼の間の抜けた声が上がり、鬼は体勢を崩すと、地面に仰向けに倒れた。


 今だっ。


 鬼の左手を払い、起き上がると同時に首筋を狙った。刃が首を刎ねる寸前で刃が止まる。

 

「戦いはおあいこ。ってことでどうかしら?」


 息を呑んだ。


 刃が鬼の首を捉えたとき、鬼の右手の爪が心臓を狙った胸の寸前で止まっている。

 何がおあいこだ。余裕で笑ってるくせに。

 憎らしい笑顔に怒鳴りたいけれど、完全にこちらが後手。これ以上動けないでいると、鬼はおどけて舌を出した。

 ふざけた反応に気が抜けると、瞬時に鬼の姿が消えた。


「楽しかったわ。私を犯すことを目的にしない、純粋な戦い。なんか忘れていたものを思い出したみたいでね」


 瞬きをしている間に声は移動すると、距離を開けた向かいに鬼は立っていた。

 鬼は体についたホコリを払うため、スカートの裾を払っている。

 もう爪は伸びていない。戦いは終わりと考えていいんだよな。

 一気に力が抜けてしまい、疲労が襲ってくる。

 なんで、こうなったんだ?




 フォルテには本当に興味はなかった。

 ウリュウの傲慢な態度にイラついてはいたけれど、鬼が嘘をついている気配もなかったので、そのまま背中を向けて町を後にした。

 しばらくウリュウは罵声を飛ばしていたけれど、知ったことではなく、無視をした。


 きっと、ウリュウの威厳は失墜しただろうと、森を歩いていたときである。

 行く手にあの鬼の女が唐突に現れたのは。


 相変わらず自信満々に胸を張り、銀髪を靡かせる。

 本当にこいつは鬼なのか、と疑いたくなるほどに華奢な体をしている。綺麗な服を見る限り、ウリュウは殺してなさそうだ。


「安心して。あの男は殺していないわ」

「じゃあ、なんでここに?」

「そうね。頑なに戦いを拒むあなたと一戦交えたくなったから、かしら」



 そこからだった。急に爪を伸ばすと、鬼が襲ってきたのは。



 鬼との一戦を終え、ようやく一息吐けた。


「なんなんだよ、お前は。遊びやがって」


 手を抜いていたのは明らか。憎らしさから声が乱暴になってしまう。


「いいじゃない。あなたもあの男にイラついていたでしょ。ストレス発散になったんじゃない?」


 ったく。おちょくるなって。


「――と、冗談はここまでにして。一度戦いたかったのは本当よ。でも一言、言いたくなったのも本当よ」


 相変わらずおどけ、顔の前で右手の人差し指を立てた。


「あんた、ラピスって奴との約束を守るつもりなのよね」

「何か知っているのか?」


 鬼の言葉に期待をしてしまい、声が上擦ってしまう。だが、すぐに鬼はかぶりを振る。


「そうじゃなくて、レガートにすぐに行かずに、同じような鬼を捜してるって言ったわよね。それで少し思っちゃったんだよね」


 期待が崩れ、下唇を噛んでいると、それまでふざけていた鬼が急に神妙な口調になり、腕を組んだ。


「それって、そのラピスを信じていないんじゃないかなって」

「なんだよ、それ……」

「本当に信じていたのなら、そんな回り道なんかしないで行くんじゃないかなって、思うんだけど」


 反論がまったくできなかった。もしかすれば、胸の奥底にくすんでいた思いを指摘されたみたいで苦しい。

 反論できずに、モヤモヤとしていると、鬼の高笑いが広がる。


「やっぱり面白いわね、あなた」

「それを責めたくて追って来たのか?」


 心を見透かされたみたいで、つい責めてしまう。


「いえ。ただそれを言いたかっただけよ。それに戦いたかったから。あとは好きにすればいいんじゃない?」

「なんだよ、それ」

「じゃ、私はこれで失礼するわ」


 本当にこいつは自分の言いたいことだけを言うと、嬉しそうに手を振る一方的な言動に呆れ、うなだれた瞬間、忽然と姿を消した。

 計り知れない苛立ちを残した鬼にうなだれるしかなかった。


「なんなんだよ、あいつ」


 信じていない。

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