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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき
18/61

第1章  16  ――  失墜  ――

 第十八話目。

 鬼、出現。


           16



 険しい形相で睨むウリュウに、鬼は呆れていた。

 それにしても、坊やって僕のことか。

 鬼の飄々とした態度に顔を紅潮させていくウリュウ。見るからに激高しているのは明らか。


「何をしているっ。その鬼をさっさと殺せっ」


 騒然とするなか、杖を突き出し、先端で鬼を指し、住民らに号令する。

 しかし、住民らは女や子供ばかり。男がいても戦いに適していない年老いた男ばかり。ましてや鬼の前。みんな怯えて足を竦ませている。


「あら、私を犯せ。じゃないのかしら?」


 またか。鬼は鋭い爪を胸のラインに沿わせ、挑発する。その姿には呆れてしまう。


「何をしているっ。早くしろっ」


 刹那、小さなつむじ風が舞い、瞬きをしてしまう。

 再び目蓋を開いたとき、そばにいたはずの鬼の姿が忽然と消えていた。

 さらに瞬きをすると、唐突にウリュウの苦しむ唸り声に目を見開いた。

 瞬きをする間に鬼はウリュウのそばに駆け寄り、胸元を締め上げていた。見た目は若く見えても、鬼なんだと痛感させられる力があった。

 杖を落とすウリュウは、胸元を掴み上げられ、宙に浮いていた。

 苦しみに必死に耐えながら鬼の腕を掴み、拘束から逃れようともがいている。

 そんな姿を楽しむ鬼だけど、そうした動きを左手一本で簡単に成し遂げ、異質な力を発揮していた。


「な、何をしている…… 早く、助け……」


 冷や汗をかき、懸命に支持するウリュウ。しかし誰もが体を強張らせ、動いてくれない。


「――で、お願いがあるんだけど?」


 と鬼は楽しみ、首を傾げる。


「私はここを放れるけれど、下手に追手とか止めてほしいんだよね。殺しながら動くのって面倒だから」

「何…… を……」

「これは命令なんだけどなあ」


 右手の人差し指の爪を伸ばし、ウリュウの喉の辺りを何度も突いている。逆らえば、すぐにでも突き刺せると言いたげに。


「残念ね。この町であんたの命令なんて聞く人間はもういないんじゃない? あんたの威厳はもうすでに失墜してると思うわよ」


 鬼の挑発は冗談ではなかった。住民らはいつしか冷ややかな視線をウリュウに向け、蔑んでいる。


「どうする? あんたは威厳を持ったまま殺されるか、生き残ってみんなから蔑まれて生き恥を晒すか。どう? 死ん方がマシかもだけど」

「おいっ、さっさとやれっ。自分の命を捨てても、ワシを守れっ。それが――」


 ウリュウの怒号が虚しく響き、鬼がさらに首を傾げる。すると、ウリュウは血走った目をこちらに向けた。


「おいっ小僧っ。ワシを早く助けろっ。命をかけて鬼を倒すのがお前の役目だろうが。お前みたいな安い命、さっさと捨ててワシを助けろっ」


 最低だな、こいつ。


「最低ね。やっぱり」


 と、僕と同じ感情をこぼした鬼は、伸びた爪を首に強く押し当てる。


「おいっ、早――」

「あんたはそいつを殺されると困るんだろ」


 込み上げるのは怒りしかなかった。それでも怒りを押し殺し、皮肉を吐き捨てた。


「ふざ…… 貴様、何を……」

「言ったろ。僕は別に鬼を倒すのが目的じゃないって」

「なんだ…… と」


 面倒。

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