第1章 15 ―― 縄張り ――
第十七話目。
町の空気は嫌い。
15
突然の発言に、戸惑いが住民らに広がる。誰もが驚きと疑念に襲われると、顔を見合わせていた。
「女の鬼にもちゃんと会いましたよ。それで奴は町に興味はないと言っていたので」
「そんなの信じられるかっ」
疑いの声がどこかからか飛んでくる。
「――信じられる」
誰にでもなく断言した。
少なくても話をしていると、ウリュウよりもあの鬼の方が信用できそうだ。
「そんなバカなっ」
「……信じられない……」
しかし、僕は部外者。すぐには信じてはもらえず、疑いの声が次々に飛び交い、白い視線を浴びせられる。
まあ、当然だけど視線は痛いな。
「余計なことをするなっ」
と、そこにまたしてもウリュウの怒号が轟き、睨むと怒りに満ちたウリュウの眼差しとぶつかる。
「そんなに女を襲えなくなるのが残念なのか?」
多少棘のある口調で問うと、ウリュウの眉が険しくなる。
「お前は何もわかっていない」
感情を抑えながらも、ウリュウは一度杖をドンっと地面に突いた。
「鬼を犯すことに理由でもあるのか?」
「鬼は縄張り意識が強いと言ったよな。それはある種の鬼への抑止になる。ワシはその習性を利用しようとしたんだ」
こちらの問い詰めを無視し、ウリュウは続ける。
「森に居座る鬼は戦いを好まないのは強者ではないと踏んだ。そして女だと知り、そいつを拘束し、そこで人の子をはらませることを考えたのだ」
「子供をはらます?」
「そうだ。そこで鬼の血を持った者を生ませ、幼いころから調教し、町を縄張りとさせ、鬼を遠ざける身柱とさせるつもりだったのだ」
「それで力に自信のある男を向かわせた、と」
「それで子供を利用しようとするの?」
「当然だ。鬼との間でできた混血なんか、それぐらいしか利用価値はない。それにいつ反乱を犯すかわからない。だからこそ、子供のころから拘束しておけば、それも大丈夫だろ。文字通り柱としてな」
と、ウリュウは不気味に口角を上げた。本性をさらけ出すように。
こいつは権力を誇示し、自分を大きくしたいのかな。
「……最低……」
住民の輪のどこかで、ウリュウを蔑む声が静かに、それでいて鋭く通った。
「誰だ、今言ったのはっ。ワシに逆らうなっ。ワシの考えがすべて正しい。ワシの言うことだけに従えっ。お前らはそれだけの存在だろうがっ」
本性をさらけ出したか。終わりかもな、この町も……。
「面白くないわね、この町は」
人の気持ちが崩れていき、崩壊していく様だと感じていたとき、冷めた1人の女の声が突き通った。
どこか聞き覚えのある声に引かれ、声の方へと振り返ると、住民の輪を縫って、中心に出てくる女が1人いた。
タイトな青い服を着、長い銀髪を靡かせ、得意げに胸を張り、得意げな様子の女が。
「――お前」
現れたのは森で出会った鬼の女であった。
「……誰だ、貴様はっ」
敵意を剥き出しにするウリュウに、鬼はおくびにもせず、首を擦っておどけると、顔の横に手の平を広げて見せ、鋭い爪を強調させた。
瞬時にして騒然となり、ほとんどの住民の顔が恐怖からか青ざめていく。
「やっぱ、この町は面白くない。ここいいても意味がないわ。それを伝えたいんだけど、お邪魔だったかしら?」
「お前、どうして?」
「ボロ社でゆったり暮らすのも嫌いじゃなかったけれど、そこの坊やにあんたらの思惑を聞いてね。利用されるのが嫌になったのよ」
気ままな鬼。




