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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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第1章  14  ――  噂  ――

 第十六話目。

 町に帰る。


            14



 やっぱり、居心地は悪いな。

 鬼と別れると、すぐにフォルテに戻った。

 町の敷地に一歩踏み込んだ瞬間、僕だけが感じてしまう、奇妙な空気の重さが一斉に肩にのしかかっていく感覚があり、足が重い。

 ただ、町の住民らは僕の心配をよそに、平然として穏やかな日常が流れているようだ。

 今朝、旅立ったときよりも露店は開かれていて、より賑やかになっている。

 それでも、雑談を交わしている住民らは僕の存在に気づくと手を止め、睨みつけてくる者もいれば、そそくさと逃げられたりした。

 やはり僕は避けられている。

 ま、いいけど。

 

「あんた、なんで帰ってきたのさ」


 砂利道を歩いていると、唐突に女の咎めた声が背中に投げかけられ、足を止めた。

 蔑んだ声に振る帰ると、今朝、鬼の討伐を願っていた男の子を庇っていた女で、買い物途中であったのか、大きな紙袋を抱えた状態で、憎らしく僕を睨んでいた。

 

「なんのつもり? やけに早く帰ってくるってことは、鬼から逃げてきたの?」

 

 本当に厳しい言い方だ。

 皮肉を通り越し、暴言に似た口調の女。険しく眉間にシワを寄せる顔を見ていると、逆に笑ってしまいそうだ。

 ここまで憎まれるんだ、と。


「長に会いたい」


 笑いを堪えながら、仰々しい女に向かった言った。


「長……?」


 女の怒声のせいなのか、人が集まってくると、次第にざわめきが大きくなっていた。

 あまり騒ぎを大きくしたくないのにな。

 できるだけ穏便にしたかったのだけれど、それは叶いそうにない。


「ワシに何か用かな? ユラ殿」


 人が集まるなか、人の輪を割って、長であるウリュウが杖を突いて音を立てながら現れる。相変わらず僕を睨んでいた。


「申しわけないが、あなたには町を出て行ってほしいと頼んだはずなのですが?」


 やはり、ウリュウの声は鋭さが抜けない。


「あんたたちに伝えたいことがあって、戻ってきた」

「伝えたいこと?」


 僕の一言に訝しげに眉をひそめ、杖を掴んでいた手の血管が浮き上がったのを見逃さなかった。

 ……怒ってるのか。

 

「あの森にいた鬼は僕が倒した」

「――なっ」


 突然の告白にウリュウは面喰い、周りにいた住民も一瞬静寂が鎮座したあと、ざわめきが広がった。


 嘘だ、本当か、と住民の間で戸惑いの声が飛び交い出していく。


「なんで、それを早く言わなかったのよっ」


 すると、女が憎らしそうに叫んできたので、小さく頷いた。


「この町に奇妙な違和感があった。事実を先に言ってしまえば、より混乱が生まれると思った。だから、話さなかったんだ」


 半分は話すタイミングがなかっただけだけど、違和感があったのは事実。きっぱりと言い切ると、女は悔しがるように下唇を噛んだ。

 どうも、納得してくれてないみたいだな。ほんと、面倒だな。


「――ふざけるなあっ」


 厄介ごとになりそうだ、とうなだれていると、唐突にウリュウが怒鳴った。

 急激に激高するウリュウに驚愕したのは僕ではなく、住民らの方で、またざわめきが大きくなる。

 それでもウリュウは気にせず、僕を睨んでくる。敵意を剥き出しにして目を血走らせていた。


「なぜ、あの女を殺したんだっ」


 ウリュウの咆哮に辺りが張り詰め、一斉にざわめきが止む。


「――女? 僕が倒したのは男の鬼だけど」

「なんだ、と?」

「僕が倒したのは男の鬼。女の鬼じゃない。なんで長は鬼が女だと決めつけているんだ? 鬼を見たのか? 見る限り足が悪く、森を歩くには不便に思うけど?」


 それまで責めていたウリュウだけど、こちらの指摘に頬が強張る。


「それは住民らの目撃情報があるから…… ではないか」


 どうも、しどろもどろになり、苦し紛れになる。


「それに、鬼の女が死ねば都合が悪いとでも?」

「いや、それは……」

「あいつがいなくなれば、あいつを犯すことができないからか?」

「――なっ」

「違うんですか?」


 ウリュウを追い詰めるべく、言い切ると、ウリュウは首を竦め、歯を食いしばっている。


「あの噂って、本当だったの?」

「――噂?」


 人の輪のなか、1人の女がポツリと呟くと、ウリュウはそれこそ鬼のような形相で睨みつけた。


「私も聞いたことがある。若い男たちは鬼の女を弄べるって躍起になってるって。鬼を倒すんじゃなくて、遊びに行くんだって男たちは楽しんでるの。それって、町のためじゃなかったの」


 と、あの女も同調して声を荒げる。すると、次第に女の噂話と男の噂が次々と人々に広がっていく。

 話が広がるにつれ、ウリュウの表情はより険しくなっていく。


「鬼とはいえ、女の人を弄ぶのを勧めるって最低」


 女は軽蔑した目でウリュウを睨む。

 この女は今朝、男の子と話しているときに僕に対して蔑んだ目をぶつけていたのは、そうした噂が関係していたのかもしれない。


「――黙れっ」


 辺りの女たちの白い視線に耐えきれなくなったのか、ウリュウが女を睨んで怒鳴った。


「ワシは町のことを考えて言っているんだっ。何も知らない奴が騒ぐなっ」


 それまで辛うじて平静を装っていたウリュウは、辺りを睨んで一蹴する。

 突然の咆哮に驚愕した住民らは一斉に黙り込む。

 それでもウリュウは住民らを睨み続ける。


「安心してください。あの女の鬼も、もう森からいなくなったから」


 騒然とするなか、女に向かって言うと、状況が掴めず、女は唖然としていた。


「女の鬼はもういない」


 鬼はもういない。

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