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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第四章  10  ――  私ってなんだろ  ――

 第百四十八話目。

 鬼は強くて怖い……。

                    

            10



 ―― 鬼に怖くないのがいる? 嘘だあ。

 ―― そうかな? お父さんはそうは思わないよ。優しい鬼だっていると思うよ。

 ―― そんなことってあるの? 鬼はみんな強くて怖いって。

 ―― そうだな。でも、優しい鬼もいるんだって信じたいんだ、お父さんは。

 ―― そうなの?

 ―― うん。だからお母さんも助かったんだよ。




 ぼんやりとした白い靄が広がった世界に、懐かしい声が響いた。

 昔のこと。

 鬼について父親と口論し、優しげに諭してくれた懐かしい記憶。

 なんで、そんなことを思い出したんだろう。

 ふと疑念が脳裏に巡り、ゆっくりと目蓋を開いた。

 瞬きをする先に見えたのは見知らぬ天井。息を呑んですぐ、ブルートが用意してくれた部屋の天井なんだと理解した。

 そして、朦朧とする意識に残る光景が夢であったんだと、遅れて気づいた。

 額に手を当て、ふと頬が綻ぶ。

 懐かしいな、と思いつつも、顔を傾けた。視界に隣のベッドが映る。

 ベッドで横になるヒスイをじっと見つめるために。

 ベッドは二脚。その1つにヒスイは眠っていた。それこそ、疲労困憊で、まったく起きる気配はない。

 以前、ネグロの贋鬼と戦った後、鬼は基本的に体力や傷はすぐに回復すると言っていた。

 そんなヒスイが立つのも苦しそうに眠っている。額や腕に包帯を巻いた状態で。

 鬼であることを隠すためだけでなく、本当に傷を負っていたために。

 ヒスイが帰ってきたのはユラが鬼に連れられた日の夜中になってから。




 鬼神と呼ばれた銀髪の鬼が、唐突に傷ついたヒスイを支えて帰ってきた。

 ユラを連れて行かれ、何もできなかった自分の非力さに嘆いていたときに。

 今にも倒れてしまいそうなほど、傷だらけな姿に愕然となった。


「姉上を頼みます」


 意識が朦朧とするヒスイを託され、銀髪の鬼が優しい口調で発した言葉に耳を疑った。


 姉上?


 ヒスイを受け取り、疑念をぶつけようとしたとき、すでに銀髪の鬼は姿を消していた。

 その後、ブルートを頼って部屋を用意してもらった。

 辺りには村人もいたけれど、懸命に隠し、鬼に襲われたと嘘をついて部屋に向かった。



 

 それからヒスイは目を覚まさない。

 私もしばらく眠れなかったけれど、ようやく寝たと思えば、昔を思い出す変な夢に襲われてしまった。

 ベッドに座り、眠り続けるヒスイをじっと眺めてしまう。

 ヒスイに聞きたいことは多い。


 彼女がこれほどまでに傷つくなんて、どんなことが起きたっていうの?

 姉上?

 そういえば、ヒスイも銀髪。弟なの? 鬼神って。


 それに…… ユラは? ユラは銀髪の鬼に連れて行かれた。だったら、ユラは?

 絶対に尋常じゃないことが起きていたことだけは理解できる。

 ギュッと両手を強く握りしめた。

 私はその場にいなかった。いることすら許されなかったのが悔しい。


 何が起きたの?


 不安が積もっていき、表情が曇ると、壁を叩く音で顔を上げた。すると、部屋にブルートが入ってきた。

 なぜか、ブルートの表情は険しい。

 部屋に入って辺りを見渡した後、どこか責めるように私を睨んでくる。


「なあ、アカネ。そいつって鬼だよな」


 昨日、ヒスイを連れて来たとき、どこか難しい表情をしていたので、やはり気づいていたらしい。


「コスモスには言わないでよ」


 それまでの親近感は薄れ、鋭く睨んでしまう。


「それはもうないよ。言ったろ。僕は抜けたって。ただ、どうしてかなって思ったんだ。あんな鬼神と呼ばれる鬼と知り合いのようだったからね」


 敵意を否定し、話すブルート。すぐさま柔らかな表情に戻った。


「あの銀髪の鬼には私も驚いた。そんな話は聞いていなかったから」

「安全なのか?」

「それは大丈夫だと思う。ううん、信じたい。ヒスイはそんなに危険な鬼じゃないって」


 疑うつもりはないらしいけれど、そこは強く言い切った。


「そっか。まあでも、アカネもどうやら大変な旅を続けているみたいだね」

「どうなんだろ……」


 でも私は危険なことより、2人に頼られていない気がする方が辛かった。

 私ってなんだろ……。


 私って……。

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