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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第四章  6  ――  神出鬼没  ――

 第百四十四話目。

 絶望。

                    

            6



 なんで、こうなってしまったの?


 絶望の光景が広がる先に、私の疑念は口を突くことはない。

 オヤジ様がユラを呼べと言ったとき、心のどこかでは微かな期待もあった。


 ユラなら迷わず来るんじゃないかと。


 ユラが現れれば、オヤジ様も話を聞いてくれるんじゃないか、と。

 そんなものは自惚れでしかなかった。

 私が変わってしまっていたんだ。きっと。


 ユラに頼っていたのね。


 その罰が目の前の光景として、降りかかってきたんだ。

 オヤジ様はユラを傷つけたけれど、それは私に対しての戒めだったのかもしれない。


 鬼はこうであれ、と。


 それでも微かにオヤジ様に憎しみに似た黒いものが体の奥から滲んでいく。

 大槍で一突き。さらに斬撃を食らったユラは、草むらに倒れ、動き気配はない。

 刃についていた血が宙に散る。

 オヤジ様は平然と顎髭を触っている。あたかも何事もなかった、と言いたげに。

 だからこそ、自分の未熟さが腹立たしくて奥歯を噛んでしまう。

 倒れるユラはやはり動く気配がない。オヤジ様はユラを一度見下ろしたあと、大槍を肩に乗せ、踵を返す。

 本堂に戻る途中、ふと足を止める。


「そうだ。久しぶりに楽しませてもらった褒美だ」


 目尻を吊り上げた鋭い眼光に体は縛られ、委縮してしまう。まだ殺気は消えていない。

 

「修羅についてだ」


短い言葉に、指先が反応してピクッと動いてしまう。動くことのないユラを眺めながらも。

 こいつが動かなければ、意味がないじゃん。


「修羅は何も力だけを求めて、高みにいるわけではない。その力に溺れているわけでもない」

「力だけではない? でも鬼はみな、それを目的にしてんじゃないの」

「――違う。そう思うのは普通の鬼だけじだ」

 

 強く否定するオヤジ様。その横顔にはそれまでの殺気が消えている。


「修羅は力に溺れる者じゃない。〝理〟に従って頂にいる」

「〝理〟? そんなものがあるの」

「どうだろうな。ワシもそこまでは詳しくない」


 オヤジ様は唇を噛む。どこか知らない自分を責めているようにも感じてしまう。

 そうか。私も一緒なんだよね。私もまだ頂に届く存在に至っていないってことね。悔しいわね。


「修羅は私たちとは見ているものが違うってこと?」

「かもしれんな」


 まだまだね、私も。


「まあ、あの子娘が神出鬼没であることに変わりはないがな」


 オヤジ様はきっと私よりも親交があるのかもしれない。だからかな。修羅に対して嘆いているようにも見えた。


「ただ、修羅に導かれる者は、何かわからないものに引き合っているのかもしれん。お互いが求めているというなら、会えるかもしれんがな」


 求め合えば会える?


「それって、私が修羅と一度戦ったのも意味があるということ?」

「それはわからん」


 どこか鼻で笑うオヤジ様。自分には興味はない、と言った様子で。

 そのまま首を捻ると、再び本堂に体を向けた。もう話すことはない、と言いたげに。


「ったく。せっかくの酔いも、バカ娘のせいで冷めてしまったわ」


 嫌味をこぼし、歩を進めるオヤジ様。しかし、少し進んだところでまた足を止める。

 奇妙な止まり方だと、怪訝に思っていると、本堂のそばで見守っていたナイルの表情を捉え、唖然とした。

 ナイルは仰々しく眉間にシワを寄せ、何かを睨んでいる。どこか憎しみをぶつけるように。


 その先はオヤジ様?


 そんなことはない。

 ナイルはオヤジ様に絶対の服従である。力だけでなく、立ち振る舞いに心酔し、尊敬している節が昔からある。

 だからこそ、オヤジ様にそんな顔をするはずがない。

 だったらなぜ?


「――っ」


 ゆっくりとオヤジ様の後ろに視線を動かすと、その先で目を剥いてしまう。

 オヤジ様の後方の草むらで、ユラが立っていた。

 腰の辺りを血で真っ赤に染め、右手には再び剣を握って。


 ユラ?

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