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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第四章  3  ――  バカ娘  ――

 第百四十一話目。

 体が重い……。

                    

            3



 体が重い。

 鬼の背中を追って走っていたけれど、ずっと体が重い。

 視界が捉えるのは鬼の背中なのに、ずっと獣の獰猛な目に睨まれているみたいに、体の自由が縛られている。

 走り続けて、どれぐらいの時間が経っていただろう。完全に木々の隙間から覗く三日月が僕を睨んでいる。

 何より、肌寒さがより強くなっていて辛い。

 まるで、山肌すべてが鬼の手の平の上みたいで、足を踏み込むたびに、沼に入るような怖さがあった。


 これが兵たる鬼の威厳? 実力?


 必死に追う背中に嫌気が差す。これほどまでに遠い背中に。

 ずっと走り続けるなか、鬼の足音が聞こえない。それだけ軽く、俊敏に走っている。これが実力。でも――


 何かが違う。


 この鬼に恐れているのに、どこかが違う。


「あれからまた激しくなったようですね」


 いつ刃が向けられるか、と身構えているなか、不意に鬼が呟く。

 何を言っているのか、と顔を上げたとき、息が吸えなくなった。

 一気に海底に突き落とされたような、窒息する苦しさに体がちぎれそうになる。

 木々が開かれ、足が止まる。

 眼前に捕らえたヒスイに驚愕して。


 ……嘘だろ。


 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 眼前で倒れ込むヒスイの姿に。



 何が起きた?

 疑念がより体を硬直させる。

 木々は開けているけれど、至るところがおかしい。

 木々は幹の根元から折れて倒れているのが多く、辛うじて残った木に凭れてヒスイは倒れている。

 両足を伸ばし、項垂れる形のヒスイ。力なく腕を垂らしている。服は泥で汚れている。

 赤く見えるのは血?

 銀髪は乱れて垂れ、耳を隠していた。

 ケガ? いやでも、鬼はすぐに回復するんじゃ――

 ヒスイの手元に愕然としてしまう。爪がボロボロで、指先が赤く腫れている。


「ほお。逃げずに来たか。たいしたものだな」

「――っ」


 なんだっ。剣を、剣を……。

 すべてが乱れた。

 どうして自分がここに来て、何をしようとしているのかすら、吹き飛んでしまうほど、真っ白になってしまう。

 それほどまでに動けない。小雨が降れば、それだけでひれ伏してしまうほど、体に重圧がかかった。なんで……。


「バカね。何しに来たの?」


 ヒスイの呆れた声が意識を震わせる。だからこそ、ヒスイが置かれた現状に、またしても胸が締めつけられる。

 壮絶な戦いによって折れたのか、横たわる木に座り、身を丸める姿は無そのもの。

 それでいて、その場にいた者すべてを支配するだけの鋭い静けさがそいつから放たれている。


 逆らえない。


 そいつはこちらに顔を向けた。獰猛で狡猾な赤い眼光。

 隆起した全身の筋肉。そのすべてが異質で、化け物みたいな禍々しさが漂っている。

 銀髪を束ねた彫りの深い顔は、しっかり僕を捉え、いつでも呑み込める、という余裕があった。

 さっき、僕を呼びに来た鬼とは比べものにならない気迫。


 そんなのありかよ。


 細身の銀髪の鬼を睨んでしまう。

 こいつでも尋常じゃない強さを感じるのに、それ以上。

 もしかして、この彫りの深い銀髪鬼の方が兵。 ……って、また銀髪?

 彷徨っていた視線がボロボロで、苦笑したヒスイを捉える。


「バカ娘が世話になったみたいだな」


 バカ娘…… 親子?



 親子……。

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