第二部 第四章 1 ―― 2人の強者 ――
第百三十九話目。
コスモスを抜ける?
第四章
1
突然の告白に、僕もアカネも唖然として目を剥いてしまう。
「コスモスを抜けた? なんで?」
静寂した間を裂くように問うアカネ。ブルートは小さく頷くと、腕を組んで身を丸めた。
ふと息を吐くと、ブルートは一度顔を上げ、辺りを見渡していく。鷹みたいに鋭い目で警戒して。
誰かに聞かれたくないのか?
ソワソワしながらも、自分なりに納得したのか、ブルートは再び僕らに顔を向ける。
「今のコスモスは、非情さが目立つんだ」
「非情さ?」
「コスモスは元々、人を鬼から守るために本来はあったはずなんだ」
「そうよ。だから私たちは地方に散って、強い人間を集めていたんでしょ」
アカネはコスモスの本質を答える。そう、それで僕らは会った。
「本来わね。でもさ、強い人間は自分が強くなる一方で、欲も出る気がするんだ」
「――欲?」
「そう。より自分が強いんだ、と」
「でも、鬼を倒そうとするなら、それは仕方がないんじゃないの?」
コスモスを庇うつもりはないのだけれど、本質を否定する姿に疑念が突いて出てしまう。
「人を守るためならね」
と断言し、ブルートの眉間にシワが寄る。
「いつしか組織は変わった。それまでは人を守るために強い者を捜していたけれど、強い者が集まれば、強い鬼すらも捜すようになった。まるで強い鬼と戦いたいためにって。
そこで「人を守る」というのが薄れていったんだ。それが僕には耐えられない」
「じゃあ、あんたは極山の鬼の噂を聞いてここまで来たの?」
「ううん。元々強い人を捜していたの確かだけど、極山の鬼を知ったのは、ここに来てから。けど、今は知られたくない」
「なんで?」
「正直、ここに強い人間はいなかったけど、強い鬼がいた。そうなれば、コスモスは強者を連れて来る。そうなれば、この村の平穏が崩される。それがけは嫌なんだ。僕は町の人らに助けられたから。だから僕はコスモスを抜ける」
「村から危険を遠ざけるために?」
「そうだ」
「ごめん。水を差すようで悪いんだけど、もし別のコスモスの者が訪れれば、意味がないかもしれないよ。それに、君が戻らなければ、余計に警戒されることもあるよ」
この場に不釣り合いなのはわかっている。けれど、気になって聞かずにはいられなかった。
訝しげな返事を浴びせられると思っていると、ブルートは意外にも飄々と笑っている。
「そうなんだよね。それが難しいんだよ」
と、ボサボサの頭を掻いて目を細めるブルート。
なんだ、この楽観視。そんなものなのか?
「ったく。なんで、あんたはそう能天気なのよ」
「ま、なんとかなるよ」
呆気に取られ、髪を掻き上げるアカネ。大きな溜め息をこぼしそうななか、ブルートはケタケタと笑う。
「でも、いつからそうなったの? 私がいたころは、それほど酷くなかったわよ」
「そっか。アカネが外に回るようになったのって、かなり前だもんね」
そこでまたブルートの目つきが鋭くなる。
「変わったのは1年前かな。コスモスには2人の強者が現れたんだ」
ブルートは右手で2本の指を立てて強調させた。
2人の強者。
ブルートの剣幕からして、冗談ではなさそうだ。
「何それ。そんなに凄いの?」
アカネの疑問に、ブルートはかぶりを振る。
「僕も会ったことがない。だから、噂でしか知らないんだ。1人は男でヒラ。1人は女でルビー」
「男と女?」
「うん。それも対照的なね。男は剛腕で押すタイプ。女はそれこそ、俊敏に動いて、相手を翻弄するタイプだって」
「ほんと、対照的って感じね」
「でも、その力は尋常じゃない」
それが2人の強者…… でも。
「いいのか? そんなこと簡単に言っちゃって」
「言ったじゃん。僕はコスモスを抜けたって。だから関係ないよ。心配しないで」
どこかブルートが軽率に思え忠告するけれど、ブルートは意に介さず手を振る。
「んで、嫌味を込めて2人は鬼なんじゃないかって、言う奴もいるんだ」
「そうなの?」
声を震わせ驚愕するアカネに、ブルートはまた手を振る。
「ただの妬みだよ。でも、それぐらいの力だってことだよ」
2人の強者。




