第二部 第三章 15 ―― 満身創痍 ――
第百三十八話目。
我ながら、情けないわね。
15
激痛に意識が途切れかけたとき、また体が飛ばされた。
動揺で受け身を取る余裕なんてなく、地面を無様に転がり、うつ伏せに倒れた。
立たなきゃ――
咄嗟に地面に右手を着くと、激痛が走る。それでも頬を歪めて、右手を庇いながら身を起こした。
膝を着いて座り、右手を眺めると、右手首が赤く腫れてしまっている。少し指を動かすだけで痛い。これは。
「たかが骨が折れただけで、騒ぐな」
腕を掴み、痛みを堪える私に容赦なく罵声が浴びせられる。酷すぎる自身の姿に嘲笑してしまう。
でも立たなきゃ。
情けない。もう足がフラフラじゃない。強風が吹けば、すぐに倒れそう。傷も回復が遅い。それだけ私が消耗しているってことね。
息を整えながらもオヤジ様を睨むと、それまでの戦意を払い、腰に手を当てる。
「なぜ、そこまで必死になれる?」
大槍を抜きつつ、オヤジ様は首を傾げる。
「ワシにはわからん。その人間が。お前がそれほどの傷を負うに値する者なのか?」
きっと、満身創痍ってことなんでしょう。だから聞いてきたのね。
「どうだろ。私にもわからない。気づけばこうなっていただけよ」
正直、自分でもこの状況は不思議で仕方がない。
「その人間、ユラと言ったか。そいつは今、どこにいる?」
オヤジ様の唐突な問いに呆然としてしまう。
「さあ。山のふもとで別れたから、近くに町があるなら、そこにいるんじゃないの」
興味がユラに傾いてしまったらしく、なんかムカつく。
「ナイル、この近くに町でもあるのか?」
それまで見守っていたナイルに、オヤジ様が問う。ナイルは一度頷くと、
「ふもとに1つ村があります。この辺りにいたとすれば、恐らくそちらかと」
村? そういえば、人影を見たとか言っていたわね。それで。
オヤジ様は顎髭を擦り、不意に空を見上げる。
釣られて空を見上げると、陽は下り、漆黒の闇が滲んでいた。
「ナイル。その人間を連れて来い」
「――なっ。オヤジ様っ。何をっ」
「お前は力もあるが、プライドも高い。そんなお前がそこまで必死にさせる相手。興味が出た」
そこでまた大槍を振り回す。
「一晩、待ってやる。それまでにそいつを連れて来い。話がしたい。もし拒むようならば、村の1人や2人、殺しても構わん」
「ちょ、オヤジ様、それは――」
「なぜ、ワシが人間に気を遣わねばならん。そんな道理なんてない」
そこで刃を私に向けて構え直すオヤジ様。
確かにその通り。人間に慈悲を持つ必要なんてない。
「まあ、それまでお前がもてば、の話だがな」
と、薄れていた戦意が放たれ、私の体を委縮させた。
「では、行って参ります」
ナイルが一礼する。
頭を上げるのと同時に、ナイルの姿は忽然と消えた。
何を考えているの……。




