第二部 第三章 14 ―― 一矢報いたい ――
第百三十七話目。
もうボロボロね……。
14
情けない……。
木々の隙間から覗く太陽の光が自分の惨めさを照らしているみたい。
ああ、またアカネに怒られるわね。
真っ白だった服が土と血でボロボロに汚れてる。
なんで、こんなときにあの子のことなんか思い出しちゃうのよ。ダメね。私の方が丸くなってる。
嘲笑しながらも、よろめく体に力を入れる。
あれから何度攻撃を加えたかしら。
どれだけ攻撃しても、オヤジ様に届かない。すでに何度も爪を折られては伸ばしている。
バカみたいに返り討ちに遭うだけ。でも、引けないわね。
余裕を見せるオヤジ様に踏み込んだ。
大槍の斬撃が降り注ぐ。
寸でのところで避けた。それぐらいはどうにか。
普通にその隙を爪で襲ったって一緒。オヤジ様には届かない。だったら。
瞬間、オヤジ様は身を屈める。私の動きを読んで。
きっと足を狙ってるんだ。
地面にめり込んだ大槍の柄に左手を置く。全身に肩の痛みが広がる。それでも。
そのまま地面を蹴り上げ、その勢いで体を反らし、大槍を支えに倒立の形になる。オヤジ様に背を向けることになるけれど、それでいい。
突拍子のない動きをしないと、オヤジ様に一矢報えない。
意表を突くには痛みなんて関係ない。
私の動きを読んで屈むオヤジ様の上空はガラ空き。しかも大槍は地面にめり込んだまま。
今ならっ。
右手の爪がオヤジ様の頭部を捉える。そのまま貫けば。
「……遅いな」
オヤジ様の落胆した声が響き、右手首を掴まれた。
――えっ? と戸惑ったのと同時に、右手を引っ張られる。視界がグンッと歪んだとき、背中に衝撃が襲う。
痛みに歪んだ視界が捉えたのは空。
腕を引っ張られ、振り回された状態で地面に叩きつけられる。
歪んだ空に1つの疑念が浮かぶ。
あれ? 私って、どれだけの時間戦っていたっけ。さっきまで明るかったのが暗い。
でもそんなの考えさせてくれる暇もない。腕を掴まれたまま、放してくれない。
「――ッ」
薄暗い空にオヤジ様が覗き込む。蔑んだ赤い眼光が肌を刺す。
―― 殺される。ダメッ。
反射的に腰を丸め、膝を折ると、勢いに任せて蹴り上げた。オヤジ様の顔をめがけて。
「乱暴だな」
呆れた声が通ったとき、右足を掴まれた。
「武器を放さないとでも思ったか」
―― えっ? えっ?
焦る間もなく体が揺さぶられ、気づけば逆さずりにされてしまう。
何よ、これ。情けない。
右手を乱暴に突き出すが、簡単に左手で掴まれる。爪は宙を刺したまま。
「どうも、お前は鬼としての境地を忘れてしまったらしいな」
ぞんざいに嘆いた声に、思わず目を剥いてしまう。
これまでにない冷徹で獰猛な声に。
「――っ」
刹那、辺りの木に止まっていた鳥が一斉に飛び立ち、葉が揺れた。
私の悲鳴が轟いて。
ーーっ。




