第二部 第三章 7 ―― 鬼の目的 ――
第百三十話目。
極山の鬼……。
7
座っていた横に置いていた剣に、手を触れえてしまう。奇妙な緊張が全身を駆け巡ってしまう。
「ってか、ヒスイ大丈夫?」
息を呑んでいると、体を傾かせて小声で聞いてくるアカネ。ブルートには聞こえないように。
そっか、そうだ。ヒスイは極山のふもとに。
「大丈夫だよ。最近はないみたいだから。それにやっぱり、村の人に危害を与えたことはないみたいだから」
「そこだけは絶対なんだな……」
わからない。何が目的なんだ、その鬼は。
いや、そうか。ヒスイも無暗に人を殺していない。
「なあ、ちなみにその鬼の姿ってわかっているの?」
正直、好奇心もあって聞いてしまった。
ブルートはそこで腕を組み、考え込んだ後に、ややあって右手の人差し指を突き立てる。
「一番の特徴は銀髪らしい。背中まで伸びた銀髪を先端の辺りで束ねている男の鬼見たいだ」
銀髪? ヒスイみたいな奴なのか。
「それに背は高くて、細身だけどしっかりした体格らしいんだ」
「やけに詳しいのね。そんなに頻繁に出現してるわけなの?」
「いや。けれどそれだけ印象に残る衝撃が大きかったから、それが伝承されて引き継がれたんだ」
それが鬼神。
「この村の人ら見たかい? ほとんどの大人が腕に刺青を彫っていただろ。その鬼にも刺青があったらしくて、それを真似てらしい」
確かにそうだったな。それにしても、その鬼にどれだけの力が。
やはり剣から手をどけずにいると、ブルートは真剣なまま僕を見据えている。
「じゃあ、今度は僕がいくつか聞いてもいいかな?」
神妙な口調になるブルートに、アカネと顔を見合わせ、ややあって頷いた。
「アカネ、君はやっぱり鬼を倒す強靭な戦士を捜して、この村に辿り着いたんだよね」
強い戦士。なんか懐かしいな。
「懐かしいわね。そんな話」
とアカネはクスクスと笑うと、手を振って否定した。
「もう私はそんなことをしていないわ。もう戦士を捜しているわけじゃない」
そっか。元々はアカネもコスモス。本来の目的はそれだよな。だったら、ブルートもまだ戦士を捜しているのか。
アカネは否定すると、「ね」と僕に促してきた。先のことを託すように。
「僕らは人を捜しているんだ。元々はレガートって町にいたらしいんだけど、あそこにはもう。それで」
「レガート?」
そこでどこかブルートの頬が引き攣った気がした。
「どうかした?」
変化にアカネが聞くけれど、ブルートはごまかし、顎を擦った。
「いや。レガートは滅んだって聞いていたから」
つい舌舐めをしてしまう。やはり知っていたか。
「でも、途方のない旅かもしれないね。人捜しってのも」
僕らの話に納得してくれたのか、僕らを労ってくれる。
できるだけ平静を装っておいた。
イリィを捜していることに変わりはない。けれど、それだけじゃない。
修羅を捜して極山の近くにいた。とまでは隠しておいた。
ブルートがコスモスであるのなら、余計な疑いを持たれたくはなかったから。
修羅について隠していると、アカネは何も指摘しなかった。彼女もそこを察してくれたらしい。
しかし、ブルートは難しい表情を崩さず、顎に手を当てて考え込んでいる。
ややあって、ブルートは顔を上げる。
「そもそもの話なんだけど、君は僕やアカネの立場ってのを知ってるんだよね」
「それは、君らがコスモスだってこと?」
胸をえぐるような声に息を詰まらせながらも答えると、ブルートは黙ってしまう。
「アカネ、君がもし、この村のこと、極山の鬼の噂のことを、できるならば上に報告しなきでほしいんだ」
「――?」
「僕はこの村の人たちに助けられたし、感謝している。だから彼らを危険から遠ざけたいんだ。上に報告すれば、隊がここに訪れ、それで危険になってほしくないんだ」
「でも、それは――」
「僕はコスモスを抜けた」
コスモスを抜ける?




