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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第二章  12  ――  願ったり叶ったり  ――

 第百二十二話目。

 いずれは……。

                      

            12



 クバンの予想外にも聞こえる、気遣いに胸が痛んだ。


「鬼を追うコスモスに関われば、いずれ修羅に関わる可能性もあるだろうしな」

「なんだ、やっぱり修羅のことも知っていたんだな」


 当然だよな。コスモスから話を聞いていたんだ。話題に出ない方がおかしいし、修羅のことを隠すようなことをしていたのなら、コスモスの連中も危うい。

 やっぱ、信用できないよな。そいつら。

 ――でも。


「願ったり叶ったりよね、それ」


 ヒスイは右手の人差し指を突き出して笑うと、クバンが眉間にシワを寄せる。


「この子たち、その修羅にも会うつもりでいるらしいからね」

「――なっ」


 僕らの旅の目的にクバンは目を丸くして、驚愕してしまう。


「お前たちは本当に命知らずのバカ者かっ。修羅を相手にするなんて。普通の鬼とは別格の別格。死ぬつもりか?」


 クバンは怒鳴りつけ、僕らを睨みつける。


「修羅にも会って確かめたいこともあるんだ。これは自分のことだから、譲れないんです」


 右手をギュッと握り締めた。これは譲れない。あの黒い靄のことを知るためには、それしかない。

 でも、深い説明は止めておいた。またクバンに心配をかけるわけにもいかないので。

 完全に僕のことも睨んでくるが、これだけは譲れない。

 ずっと目を逸らさずにいると、根負けしたのか、溜め息交じりに背を丸め、腕を組んだ。


「ったく。勝手にするんだな。ワシはもう知らん」

「あら、怒ったの、お爺ちゃん」


 気を損ねたのか、クバンを茶化すヒスイを見ていると、つい笑ってしまった。

 ヒスイは人を茶化してくるけれど、逆にそれが助かる部分でもあり、気持ちが軽くなった。


「だが、これだけは言っておく。やはりコスモスには気をつけろ。イリィを捜すにせよ、それはコスモスの思想に反するかもしれん。あまり関わらんようにするんだな」


 クバンの忠告。それにはアカネもヒスイも逆らわず、黙って頷いた。


「それはそうだな。だったら、コスモスの拠点となっている町なんかを避けて通るべきかもね」

 

 ヒスイが指摘すると、アカネに視線が注がれた。

 コスモスの情報を持つのはアカネしかおらず、頼ってしまう。


「って言っても、私も末端の者だからね。詳しくは」


 と逡巡すると、思い出したように、おもむろに地図を取り出し、床に広げた。


「私も詳しくはないから、どこがどうって知らないのよ。ほとんどボルガに任せっきりだったからね」


 と、広げた地図を眺めつつ、指でなぞっていく。僕らも身を乗り出し、指を追った。


「コスモスの本拠地とも呼ぶべきものがヘオンね。ここからだと、北東に位置した」


 アカネはここから指でなぞりながら、1つの街をトンっと指差した。


「おいマジかよ。ヘオンと言えば、東の大都市じゃないか。そんなところにそんな組織の母体が? 首都のトオンにケンカを売るつもりじゃないだろうな」


 コスモスの拠点を知り、驚きを上げたのはランス。


「それ以外はわからないわ。裏に隠れて動いているのもあるだろうしね」

「裏にって。だったら、俺らが自主的に鬼を退治していたのはなんだったんだよ、まったく……」


 ランスも個人的に人を集めて鬼を討伐していた。だからこそ、空しくなったのか、首を擦りながら嘲笑する。


「まあ、あと知っているとすれば、セーニョぐらいね。ここから一番近くて、私が知っている場所と言えば」


 と今度はまた別の場所を指差した。ただ、アカネの顔はそれまでと違って頬を歪める。

 セーニョを嫌がっているみたいに。


「どうかした?」

「ううん。ここは私の個人的に行きたくない町なだけ。気にしないで」


 不穏な顔をするアカネも気になるが、本人はごまかした。


「セーニョに行こうとするなら、この街道をまっすぐ進むのが一番早いし、安全ね。ほかにはこっちの山道に曲がってって、あれ?」


 地図を眺めて指を動かしていたアカネがふと指を止める。


「どうかした?」


 首を傾げるアカネ。


「うん、いや。うる覚えなんだけど、この辺りも確かコスモスが巡回していた気がして」

「それって、この辺りが何か、コスモスにとっても重要か何かってこと?」

「どうだろ。それを考えたら、この町もよくコスモスが来ていたってことだから。 ……ねえ、クバンさん。何か知ってる?」


 それまでじっと眺めているいたクバンが広げた地図に身を乗り出す。

 しばらく顎を擦りながら、地図を観察するクバン。ややあって頷くと、


「それはこいつが原因だろうな。恐らく」


 と、アカネが指すところとは別の場所を指差した。

 覗き込むと、地図には山脈の絵が描かれている。どうしてそこを指したのか見当がつかない。


「ワシらはこの山を〝極山〟と呼んでいる」

「――キョクザン?」


 聞き慣れない名前に首を傾げる。


「ここには昔から桁外れに強い鬼がいると噂があるんだ。もしかすれば、そいつの縄張りに入っていて、鬼に襲われなかったのか…… そうか。極論を言えば、ラピスもそれで去った可能性も」


 1人納得したのか、クバンは背を伸ばし、お茶を一口飲むと、息を整えた。


「鬼の縄張りって、その山からここはかなり離れてんじゃん」

「そうだ。それだけの縄張りを張れる者。修羅に匹敵する鬼がいるということだ」

「修羅に匹敵? それって〝兵〟ってことか?」


 ランスが驚愕する。

 そんなに強い鬼が近くに?

 すぐそばに強靭な存在を知り、背中に寒気が走る。

 右手をギュッと握り締めてしまう。


「ほんと、願ったり叶ったり、だな」


 怖いはずなのに、笑みがこぼれた。


 願ったり叶ったり、か。

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