第二部 第二章 5 ―― クバン ――
第百十五話目。
気難しい……。
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僕らの反応を不思議そうに眺める医師。それまでになく頬が引きつってしまった。
ややあって、アカネがレガートで見つけた手紙を取り出し、医師に渡した。
「……タリムさん? ごめんね。この人は知らないなあ」
と、手紙を返して謝る医師。
「じゃあ、やっぱりクバン爺さんに聞く方がいいかもね。この町のことや、もしかすれば、レガートについても知ってるかもしれないしね」
手紙を返され、唇を噛むアカネに勧められると、あからさまにランスは顔を歪めた。
「あのジジイとまた? 俺はどうも苦手だな」
普通に嫌味を吐くランスに、どうもクバンという人物に嫌なイメージを膨らませてしまう。
「まあまあ、そんなに嫌がらないでやってよ。多少、クセはあるんだけど、悪い人じゃないから、大丈夫だよ」
手紙のことで聞かないといけないのだけれど、僕らの不安を察したらしく、すぐに弁解してくる。
それでも素直に受け入れにくそうだ。
「町のために動いてくれる人だからね。そろそろここにも来るんじゃないかな」
「え? なんで?」
「うん。今日みたいに、何か騒ぎが起きたら、町を見回っているんだ。君らが見た騒ぎも、その途中で起きちゃったんだろうね」
「マジで? 来るのかよ、あのジジイ」
露骨に嫌がるランス。そこまで嫌がるのを見ていると、逆に興味は沸いてしまう。
「クバン爺さんに、君ら用なんだよね」
「まあ、そうだけど」
「だったら、明日にした方がいいよ」
「なんで?」
「いや、言った通り、クセが強いって言ったでしょ。今の時間じゃ、ね」
どうもクバンという人物は、気難しい人物らしく、医師は忠告してくれたみたいだ。
だったら、ちゃんと話を聞いてくれるのか、と不安が膨らみそうだ。
医師の忠告を受け、クバンの家に向かうのは次の日の朝にしておいた。
陽が昇り、昨日の騒ぎからして、騒然としていると思ったけれど、意外にも整然としていて、どこか町のたくましさみたいなものを感じた。
昨日は病院で休ませてもらえたので、体も軽くなってくれていた。
普段と変わらない体調になってくれたけれど、やはりクバンという人物を想像すると、気が滅入ってしまう。
「お前らかっ。昨日、病院に居座っていた旅の者ってのは。何ふざけたことをしているんだっ」
医師に教えられ、向かったクバンの家。
飛び出してきたのは細く小柄で老人。白髪交じりの髪に、顎にも白い髭が蓄えられており、肌の黒さがよりその白を際立たせている。
シワが深く掘られた目は獰猛で、僕らを睨みつけていた。僕らの敬意を伝えるや否や、話を聞く素振りもなく怒鳴ってきた。
年に似合わず、意志は強そうだ。
間髪入れず怒鳴る姿から、想像以上に気難しそうな雰囲気で、頭痛が起きそうだ。
クバンの家は町の中心の通りから奥まったところにひっそりと質素な家が建てられていた。
クバンは杖で体を支えた腰の曲がった老人であったけれど、目の奥の瞳孔は依然くすんでおらず、まっすぐな眼差しからは、意志の強さを放っていた。
どうも、目が合うだけで、体が委縮してしまい、ランスが嫌がるのもわかる気がした。
現にランスは最後尾に立ち、腕を組みながら体を横に向けて、顔を合わそうとしなかった。
「いいかっ。病院とはな――」
「あのクバンさんに聞きたいことがあったんです」
クバンは杖を振り上げ、怒号を飛ばし、延々と説教が続きそうなのをアカネが察し、大声を出して制した。
そのまま説教が続きそうであったけれど、一歩も引かずに立ち塞がるアカネ。
その気迫に根負けしたのか、杖を下し、口を閉じた。しかし、しばらく2人は睨み合ったまま。
いつ感情が爆発してもおかしくない雰囲気に、息を呑んでしまう。
「あの、ラピスって鬼を知っていますか?」
また怒声が飛び出す前に、率直に聞いてみた。タイミングを逃してしまえば、ずっと叱責を喰らってしまいそうなので。
すると、クバンの表情が変わってしまう。
目尻を吊り上げたままではあるけれど、どこか目が泳ぎ、僕らから目を逸らしている気がした。
「知っているんですか?」
淡い期待に胸が熱くなると、クバンは踵を返す。
「中に入れ」
話を拒まれたのか、と下唇を噛んだとき、クバンの弱々しい声が届いた。
なんか、苦手かも……。




