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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第一章  12  ――  助けてあげようか  ――

 第百五話目。

 体が重い。

                    

            12



 体が熱い。

 鼓動が激しくなり、足元がおぼつかなくなっていく。

 今となって、ネグロとの闘いの傷までが疼いてしまっている。

 鬼は弾かれた爪を、不思議そうに指を動かし、こちらの行動を伺っている。


 なんだったんだ、今の感覚。


 一度腕を振り払うと、また鬼が距離を詰めていた。

 今度は顔をめがけて鋭い爪を突いてくる。

 黒い靄に邪魔をされながらも、首を逸らして爪を弾いた。

 と同時に右足を軸に体を回転させ、右足で一撃を加える。

 避けられると思えた反撃は当たり、鬼はよろめき、後ろに下がる。


 ……やっぱり。


 さっきまで一撃を弾くのが精一杯だったのに、急に鬼の動きに体がついていけてる。

 体が重いはずなのに、鬼の動きが追える。


 ――なんで?


 疑念が強まるなか、視界の淵に黒い靄がちらつく。腕だけに留まっていた靄が全身に広がろうとしていた。

 まさか、これが原因? でもなんで?


「――っ」


 迷いが生じていると、鬼が追撃してくる。何度か弾かれていたのが癇に障ったのか、より俊敏な動きになって。

 ただ、それもかわすことができた。

 でも、動きが増したせいか、避けることが精一杯になってしまう。

 クッソッ。剣を捌くのに黒い靄まで邪魔になる。ったく、せめてこの黒い靄だけでも腫れてしまえば。


―― 手伝ってあげようか?


 迫る爪の猛攻をいなしていたとき、不意に脳裏に女の声が木霊した。

 この声は、あの黒い靄に呑まれたときの声と同じ。

 ヒスイの言い分じゃ、確か〝修羅〟。


 なんで?


 混乱で防御の手が緩み、隙が生まれる。

 刹那、鬼が眼前に現れる。 


 やられるっ。


 諦めで目蓋を閉じ、奥歯を噛みしめてしまう。

 体のどこかが悲鳴を上げるのを覚悟したが、なぜか体を襲う痛みはない。

 あれっと、目蓋を開くと、眼前にいたはずの鬼が後ろに下がり、片膝を着いて身構えている。


 何が起きたんだ? 


 自分の体を見下ろしたとき、その異変に胸が締めつけられ、鼓動が激しくなる。

 次第に増していた黒い靄は全身に侵食し、体のすべてを覆いつくそうとしていた。

 不穏な雰囲気に警戒し、鬼は距離を広げたらしい。


 ―― どう? 今からでも代ろうか?


 うるさいっ。今はそんな。

 またしても頭に声が響く。

 眼前の鬼に注意しなければいけないのに、どうすれば……。

 集中力が散漫していく。視線が一点に定まってくれない。

 僕を茶化すような声にいら立ちが積もり、より判断が鈍りそうになる。

 問い詰めてくる声に導かれた刹那、またしても鬼の姿を見失ってしまう。

 暗闇が増していくと、広がる影に焦りが強まる。

 静かに足を動かし、意識を研ぎ澄ましていると、微かに吹いた風が黒い靄を散らし、頬に触れた。


「――っ」


 暗闇より濃い影が迫る。視線を影に向けると、距離を詰めた鬼がすでに迫っていた。

 だめだ、今度は反撃できず、爪を受け流す隙がない。


 ―― さあ、どうするかしら?


 また声が邪魔をする。

 鬼は左手の爪を伸ばし、僕の顔に向けて定めていた。


 ……避けられない。


 ―― だめね、あなた。


 鬼の爪が貫く。


 避けられない……。

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