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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第二部  第一章  11  ――  負ける  ――

 第百四話目。

 こいつは…… 違うっ。

                     

            11



 怖い……。

 強い。


 そして、


 ……負ける。

 一瞬の弱気によって、全身に重力が圧しかかる。

 まるで急に足かせで縛られたみたいで、体が重い。

 ゆっくりと体を起こし、剣を構えるけれど、蹴られた左脇が痛み、よろけそうになる。

 いや、違う。どこか怯えているのか、体が構えるのを拒んでいる。


 ――でも。


 痛みを堪えて、息を呑み込む。

 逃げるわけにはいかない。

 辺りを見渡せば、逃げ遅れた住民らが好奇心と恐怖に満ちた眼差しでこちらを伺っている。

 ここで逃げれば、こいつが住民に襲い兼ねない。

 恐怖と迷いに潰されそうになっていると、あいつは剣先をこちらに向ける。

 完全に僕を標的に定めた。と言いたげに。

 手に力を入れ直したとき、相手は地面を蹴った。

 瞬きをする間もなく距離を詰められる。

 動きを追っていると、すぐさま一撃が襲い、剣で受けた。一度斬撃を流すけれど、すかさず二撃目が息つく間もなく繰り返される。


 それらを受け流すのがやっと。

 

 怒涛の応酬に後ろに下がってしまう。

 張り詰めた空気のなか、暗いなかに刃がぶつかり火花が散り、甲高い音が鳴り響く。


 こいつは完全に違う。


 ヒスイやネグロといった、これまでの鬼とは格段に違う。一撃一撃が岩みたいに重いくせに、蜂みたいに俊敏に動かれる。

 気を抜けば、そこで。


「――っ」


 刹那、剣技の合間を抜け、右足の一撃が襲う。両手は剣を握るのが精一杯。

 防御する隙がない。

 気づいたとき、腹に激痛が走るのと同時に、後ろに飛ばされた。

 受け身を取る余裕もなく、無様に転げた。

 ゲホッと咽ながら上体を起こすけれど、全身が痛くて立ち上がれない。つい片膝を着いてしまう。

 肩で息をしていても、鼓動が治まってくれない。

 なんとか剣は飛ばされずにすんだけれど、右手には力が入ってくれない。

 疲労から?


 違う。


 悔しいけれど、こいつに対しての恐怖心から。体が怯えて上手く動いてくれない。

 このままじゃ、本当に負ける。

 嫌なイメージが体を支配していくと、動きが鈍くなっていく。


 ……負ける、のか。


 不安に締めつけられていると、体の異変に唇を噛んだ。

 震え出す右手に、またしても黒い靄がまとまりつこうとしていた。


「――っ」


 なんでこんなときに。クソッ。今はこんなものに……。

 鬼の動きに警戒して意識が散漫になっていると、次第に黒い靄が手首の辺りから肘の辺りにまで広がっていく。


 なんだ? なんでこんなに早く……。


 戸惑っている間に靄は全身を襲ってくる。


「ユラッ、どうしたの、その靄っ」

「来ちゃダメだっ」


 クソッ。なんだ、意識まで朦朧と……。

 目が霞んでいくなか、声を上げるアカネを静止した。このままじゃ巻き込んでしまいそうで。


「――っ」


 纏わりつく靄を左手で払っていると、悪寒が走る。

 それまで様子を伺っていた鬼が急に動く。

 なぜか片刃の剣を仕舞ってしまう。

 諦めてくれたのか、と期待して剣を構え直していると、すぐに目を剥いてしまう。

 鬼はおもむろに左腕を曲げ、顔の前で手の平を広げた。やはり腕には黒い防具を装備していた。

 何をするのか、と見守っていると、手にしていた防具を脱ぎ、素手を晒した。

 離れていても、爪は鬼の鋭さが際立っている。

 刹那、5本の爪が伸ばされた。

 本領発揮って、言いたいのか。クソッ。

 刹那、鬼の姿が消える。

 瞬きをした瞬間、眼前に鬼が近づき、爪の伸びた左腕を振り払おうとする。

 反射的に剣で弾いた。


「――?」


 何気ない反応だった。腕を弾かれた鬼は、戸惑ったのか左腕を掴んで後ろに退いた。

 何かが違う。奇妙な感覚が襲う。


 ――いけるっ。


 変な自信に満ちていた。


 ……またっ。

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