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初任務前夜と新装備

初任務を翌日に控えた夜、エルミナ商会から装備完成の連絡が届いた。正直、ギリギリすぎて焦りはしたが、この装備が俺の命を守り、戦う力となる――その確信だけが心を支えていた。俺は少し早足で街を抜け、商会の重厚な扉の前に立つ。


扉はどっしりとした鉄製で、その表面には無数の傷が刻まれていた。まるでこの場所が戦士たちの拠点であり、何度も試練を乗り越えてきた歴史そのものを物語っているようだった。手を伸ばし、その冷たい扉を押し開ける。途端に、商会特有の空気が俺を包み込んだ。


商会の空気


鼻を突く鉄と革の匂い。微かに立ち込めるオイルの香り。それらが交じり合い、エルミナ商会だけの独特な雰囲気を作り出している。店内は整然と並ぶ武具や道具で埋め尽くされており、それぞれが鈍い光を放っていた。壁際には研磨中の剣や修理待ちの鎧が掛けられ、中央には大きな作業台が据えられている。その台の上には分解途中の魔道具が散らばり、そこから漏れる魔力の微かな震えが肌に触れるような感覚をもたらした。


店内には工具を叩く金属音が響き、奥からは火花の散る気配が伝わってくる。緊張感と期待が混ざり合ったこの空間にいると、自然と背筋が伸びる。これが、ただの商会ではないことを改めて実感させられた。


「おう、キース!待ってたでやんすよ!」


豪快な声が静かな店内を震わせるように響いた。声の主はガンズ――エルミナ商会の頼れる技術者だ。彼は油で汚れたエプロンをつけ、力強い笑みを浮かべながら大きな手で俺を招いた。


ガンズの手渡す装備


「これだでやんす、キース。お前専用に仕上げた装備でやんすよ!」


ガンズが持ち出した黒い箱には、微かに魔力が揺らめいていた。その箱が開かれると同時に、冷たい空気が漏れ出し、まるで中に秘められた力が解放されるような感覚が広がる。俺は思わず息を呑んだ。


闇を纏うフード付きの上着


まず目に飛び込んできたのは、黒いフード付きの上着だった。光を吸い込むような漆黒の生地。指先で触れると、その滑らかさと冷たさが肌に伝わる。驚くほど軽いのに、どこか重厚感がある。袖を通してみると、生地が肌にぴたりと馴染み、自然と背筋が伸びた。


「この上着には特殊な加工が施されてるでやんす。お前の気配を消し、姿を闇に溶かす効果があるでやんすよ。影の中で任務を遂行するには最適でやんす!」


ガンズの言葉に、俺はフードを深く被った。視界が闇に包まれるような感覚が広がるが、それは不安ではなく、影としての力を自分に宿す感覚だった。


自分に帰る小型ナイフ


次に渡されたのは、小型のナイフ。刃の部分は青白く光り、柄にはルーンが刻まれている。そのデザインには無駄が一切なく、実用性と美しさを兼ね備えていた。手に取ると、その軽さと完璧なバランスに思わず息を呑む。


「これはお前の魔力に反応するナイフでやんす。投げても手元に戻ってくるでやんすよ。お前の意志を読み取って動くから、ただの武器以上の働きをするでやんす!」


俺はナイフを軽く振ってみた。空気を切る音が耳に心地よく響き、まるでナイフが自分の一部になったかのように感じられる。このナイフはただの道具ではない――俺を支える相棒そのものだった。


吸血鬼の仮面


最後に手渡されたのは、艶やかな黒の仮面だった。口元が空いた独特なデザイン。その理由は一目で理解できた――俺がヴァンパイアであるためだ。この仮面は素顔を隠すだけでなく、吸血鬼としての能力を存分に活かすためのものだった。


「ルクスアーカムのメンバーは素顔を隠すのが鉄則でやんす。でも、お前の場合は特別仕様にしたでやんす。任務中、吸血鬼としての力を最大限に発揮できるようになってるでやんすよ。」


仮面を顔に当てると、ひんやりとした感触が頬を包み込んだ。その瞬間、気配が薄れていくような感覚に囚われる。これを身に着けることで、俺は影として生きる覚悟を突きつけられたようだった。


「これでお前は影そのものになれるでやんす!しっかり使いこなせでやんすよ!」


ガンズの声には、俺への信頼が滲んでいた。この仮面はただの防具ではない。俺を闇へと導く新たな存在の象徴だった。


新たな覚悟


装備を全て身に付けた俺は、鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。闇を纏う上着、自分に帰るナイフ、吸血鬼としての力を隠さない仮面――どれもが俺を新しい存在へと変えるために作られたものだった。


ガンズが俺の背中を力強く叩き、「これでお前は大丈夫でやんす!絶対に生きて帰れでやんすよ!」と笑う。その笑い声が、どこか頼もしく聞こえた。


俺は深く頷き、装備を整えたまま商会を後にする。夜風が吹き抜け、その冷たさがこれから始まる任務の厳しさを予感させた。


だが、俺はその風に逆らうように歩き出した。この装備と共に、俺は影としての戦いに挑む――それが、俺に与えられた新たな道だった。


「絶対に、生きて帰る――。」


その言葉を胸に、俺は静かに夜の中へと消えていった。

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