新しい居場所
俺はルクス・アーカムの一員として、影に身を潜める生活を始めることになった。かつてアサシンギルドで育った俺にとって、ここでの暮らしはどこか懐かしくもあり、同時に全く異質なものにも感じられた。ルクス・アーカムはただの暗殺組織ではなく、各国の陰で均衡を保つための諜報と影の活動を担う存在だった。ここでの日々は俺に、単なるアサシンとしてではなく、一流の影の存在として成長することを求めていた。
ヴィクター・グレイブが俺の師匠となり、影の者としての技術を徹底的に鍛えてくれることになった。彼は冷徹で厳格だが、その裏には俺が強くなるために必要な教えを余すところなく伝えようとする意思が感じられた。ヴィクターの教えは、アサシンとして生きてきた俺にとっても新しいものばかりだった。
彼はまず、俺の基礎体力をさらに鍛え直すところから始めた。アサシンギルドでの訓練に比べ、ヴィクターの要求は遥かに高く、過酷なものだった。彼は俺を極限まで追い込み、心身ともに鍛え上げることで「影の強さとは何か」を俺に教え込んだ。
「キース、影として生きるなら、自分の感覚と姿勢を極限まで研ぎ澄ませろ。お前の存在が空気の一部になり、相手の意識にすら残らないほどに」
俺はヴィクターの指導に従い、呼吸の一つ一つ、足音の一つ一つを制御する方法を学んでいった。彼の下で訓練を積むうちに、俺は影の一部となる感覚を少しずつ身につけていく。そして、俺がヴァンパイアの力を持っていることも彼は熟知しており、その力をどうアサシンとして活かすかも指導してくれた。
ヴァンパイアとしての力は、俺の視覚や聴覚、そして肉体の強化を可能にしてくれる。夜の闇の中で、まるで昼間のように物を見渡せる視力と、遠くの音まで聞き分けられる聴覚。これらの力は、ヴィクターが教える影の技術と見事に融合していった。
彼はこう言ったことがある。
「お前の力は強力だが、決してそれに溺れるな。ヴァンパイアであれ人間であれ、強さは自分の意思と覚悟に宿るものだ」
その言葉が、俺にはずしりと重く響いた。ヴィクターが言いたいのは、力に依存するのではなく、力を制御し、自分自身の意志を持って動けということだった。俺はその言葉を胸に刻み、ヴァンパイアの力を持ちながらも、ただの「化け物」ではなく一人のアサシンとして成長していく決意を固めた。
日々の訓練は過酷だったが、ヴィクターの指導の下で俺は少しずつ自分の限界を超えていった。俺が一瞬でも迷いを見せると、彼は容赦なく指摘し、再挑戦を命じた。何度も心が折れそうになる瞬間があったが、そのたびにヴィクターの言葉が支えになった。
「アサシンとして生きる覚悟を持て。影の道は孤独だが、その分だけ、お前にしかできないことがある」
俺は、この組織で過ごす日々の中で、自分が進むべき道を少しずつ理解し始めた。影の者として、そしてヴァンパイアとしての自分の力を極限まで高め、いつかヴィクターに認められる存在になること。それが今の俺の目標であり、覚悟だった。
このルクス・アーカムの影の中で、俺は新たな自分を形作り、ヴィクターのような存在に近づくために一歩一歩を踏みしめていた。
ルクス・アーカムでの新生活が始まった頃、俺の年齢に近い二人、ソフィア・ルクレシアとクロウ・アシュベルが色々と世話を焼いてくれた。彼らは俺がこの組織で過ごすために必要なことを丁寧に教えてくれ、初めての任務や訓練後の疲れを癒すような気遣いを欠かさなかった。彼らの存在は、この影の組織で孤独になりかけていた俺にとって、大きな救いとなった。
ソフィアは頭脳明晰で、ルクス・アーカムの情報分析や作戦の立案に長けている一方、気さくで明るい性格をしていた。俺が初めての任務で緊張していた時も、彼女はさらっと笑って「何かあれば私が後でリカバリーしておくから、気楽にいけばいいわ」と励ましてくれた。彼女の頼りになる言葉が、俺の気持ちを少し軽くしてくれた。
クロウ・アシュベルは無口でクールな一面を持つが、実は面倒見がよく、訓練が終わった後に飲み物を差し入れてくれるような気遣いも見せる。彼は影での戦闘や隠密行動に関する技術も教えてくれ、俺がヴィクターの厳しい訓練に耐えられるようサポートしてくれた。クロウの存在は、まるで兄貴分のようで、俺が孤立することなく、組織内で安定して成長できるよう見守ってくれている気がした。
二人は、俺をルクス・アーカムが誇る武器や装備の供給元である「エルミナ商会」にも連れて行ってくれた。この商会は表向きは合法的な商取引を行っているが、その裏で秘密裏に武器や装備の開発を手掛けている。俺が初めて商会の敷地に足を踏み入れた時、そこには何とも言えない異様な活気があった。
エルミナ商会の内部は、最新の技術が詰まった武器の数々や、特殊な魔力を帯びた装備が並べられていて、まさに戦士たちのための秘密工房といった雰囲気だった。開発者たちは次々と新たな試作品を生み出し、より強力で効率的な武器を求めて研究を続けている様子だった。俺が驚きの目でその光景を見ていると、ソフィアが楽しそうに笑いながら説明してくれた。
「ここでは、君が考えつかないような装備がたくさん開発されているの。もちろん、君が使うものもここで揃えることになるわ。エルミナ商会がルクス・アーカムの装備を支えているってこと、覚えておいてね」
クロウも無言で頷き、彼もまたエルミナ商会の力を信頼している様子だった。俺がここで戦うための武器や装備が、彼らによって支えられていると知ると、少し安心感が湧いてきた。
エルミナ商会で得られるものは、ただの武器や装備ではなく、ルクス・アーカムで生きるための「強さ」そのものだと感じた。俺が新しい生活に馴染むために必要なものはすべて、ソフィアやクロウ、そしてエルミナ商会を通じて少しずつ手に入っていく気がした。




